鳥越一穂氏の作品が届く#2
画家鳥越一穂氏が計画しているMediciという仕組みのテスト運用に参加しています。仕組みについては下記を参照ください。
http://torigoeart.wixsite.com/medici
2ヶ月毎にパトロン間で作品を交換するのですが、試験運用も2ヶ月目に入り、2作品目が届きました。
なお、前作については下記を参照ください。
http://www.cad-red.com/blog/jpn/index.php?e=1266

さっそく自宅の壁に飾ってみました。
鳥越一穂作品
なかなかの風格があります。今回も銅板に油彩で描かれたトロンプルイユ(だまし絵)です。黒の額縁に入っており、本体のサイズは前回よりもやや小さいものの、全体としてはより立派な印象を感じます。この近辺のサイズの場合、支持体を銅板にするというのは、よい選択かもしれません。キャンバス画より細密感があり、板絵ほど嵩張らないと思われます。

では、細部までじっくり鑑賞しつつ何か語ってみたいと思います。何しろ、昔のヨーロッパ、テレビもラジオもインターネットもない頃は、1枚の絵の前で何時間も議論することがあったと言います。現代では、映像など情報メディアと親和性の高いジャンルに攻められて、絵画にそのような役割がなくなってしまったような気がしますが、鳥越氏のモチーフにはいろいろ議論できそう要素がたくさんあります。
鳥越一穂作品
額縁の色と混ぜ合わせた一体感のだまし絵となっており、額縁の影も描かれています。バックの白い下地はやや茶色味がかっており、暖かみのある色合いになっていますが、おそらくアンバーで調整し、かつリンシードオイルを使っていることによるのでしょう。個人的には青白い白よりもこちらの方が絵画的な落ち着きがあってよいと思います。表面の粒状感は、地塗り材に含まれる大理石粉かと思われます。これは平滑な面に油彩画を描いたときの、光の反射の問題を解決しており、細密でありながら、印象派以降の一般的な趣味にも合うのではないかと思います。

モチーフは、ガラス容器に入った昆虫標本、おなじくガラスサンプル容器に入った天然ウルトラマリン顔料?、チェーンにメダル、そして背景には赤い封蝋のようなもので貼られたメモ書きのようなものが見えます。私としては非常に興味深いモチーフです。これを前にして、1時間は講義できそうな気がします。コルクや標本のシール、乾いた顔料の雰囲気や質感がよく描かれていると思います。鳥越さんの作品は虫が描かれていることが多いのですが、これはヨーロッパの静物画、特に花やフルーツが描かれている作品には定番の要素で、むしろ虫がいっぱいいる方が、モチーフの花やフルーツの魅力を物語っているとも言えるのですが、日本の一般的な顧客層に理解してもらえるだろうかという心配がなきしもあらずという気持ちはあります。封蝋も見たことがない、存在すら知らない、という日本人が9割以上を占めるかと思います。ヨーロッパのだまし絵の文化や、静物画、特に実物をよく見て知っている層には、すんなりと入っていけるのですが、その人数は限られていることは確かでしょう。西洋美術になんらかの関わりがあれば、知って当然そうなことを意外と知らない人が多くて、ちょっと残念に思ったりするのですが。様式やモチーフの物質的なところについて見てきましたが、もうひとつ気になるのは見えている個々のモチーフや組み合わせに、何か裏の意味があるかどうか、という点でしょうか。わかりやすいところでは、ヴァニタス、メメント・モリ、カルペ・ディエムなどの寓意的な意味が込められているか、あるいはもっと複雑な裏構想があるのかどうか。昔の絵は、そういうものに満ち満ちていたわけで、それらについても議論されたり、あるいはその意味を理解して飾られていたことでしょうから。と言っても私はそちらの方面は得意分野ではないので、本人に聞いてみないとわからないのですが、本作では文学的な、あるいは抽象的な意味や、形而上学的な思索みたいなものは、それほど複雑に取り入れられてないのではないかと思います。取り入れても現代人にほぼ理解されないので、そこを複雑化するのは危険ともいえるかもしれません。誰にでもわかるような文学的表現なら美術史家などの層も開拓するとなると、こっそりそういうの入れておくのもいいかなという気はします。各地の大学に美術史専攻というのはそれなりの数あるので、一定の数の卒業生は知識を持って卒業しているはずなのですが。この辺はいずれ話題にしてみたいと思います。

| 絵画材料 | 10:44 AM | comments (0) | trackback (0) |










http://www.cad-red.com/blog/jpn/tb.php/1284

↑上に戻る↑ <<新しい記事 : 古い記事>>
累計
本日、昨日 集計結果
  
■NEW ENTRIES■
■RECENT COMMENTS■
■RECENT TRACKBACK■
  • 昔のキャンバスの木枠は意外とシンプルだったのか?
■CATEGORIES■
■ARCHIVES■
■PROFILE■
■POWERED BY■
BLOGN(ぶろぐん)
BLOGNPLUS(ぶろぐん+)
■OTHER■
■LOGIN■
現在のモード: ゲストモード
USER ID:
PASSWORD: