ラピスラズリからのウルトラマリン抽出 2:パテづくり
前回、ラピスラズリを砕いて粉末化したところで終わりました。
細かく砕いて顔料にしましたが、灰色の不純物が多く含まれており、砕いただけは、写真の通りで、濃い青には見えません。
ウルトラマリン抽出

この中から青い部分を取り出さなければならないのですが、中世の画家であるチェンニーニが書き残した方法で行ないます。一言で説明すると、松脂などの材料でつくったパテに顔料を入れ、熱い灰汁の中で練っていると、青い部分だけ外側に出て、器の中に溜まるという方法です。

従って、今回の工程はパテづくりです。パテの材料は松脂、マスチック、蜜蝋です。
ウルトラマリン抽出

前回より参照している金沢美術工芸大学の論文では、重量比にて下記の通りと書かれています。
 ラピスラズリ:4
 松脂(バルサム)2
 マスチック:1
 蜜蝋:1

論文では、松脂をロジンとして進めていますが、当サイトの掲示板にて、かつてmiyabyo氏がロジンではなくバルサムではないかとコメントしており、確かに理にかなっていると思われるので、バルサムで実行してみます。
実は、この件は既に画家の鳥越一穂氏が、ブログで書かれていますので、ほとんど後追いでの検証になります。
鳥越氏と同じ処方になって心苦しいところもありますが、わかりやすく以下の重量で試してみます。

 ラピスラズリ:4g
 松脂(バルサム)2g
 マスチック:1g
 蜜蝋:1g

松脂(バルサム)ですが、画材店でヴェネツィアテレピンの名で売っているのですが、よく観察するとメーカーによって粘度が異なります。成分表を見ると、どうもガムテレピンを再投入して柔らかくしているようなものもあるようなので、手元にあるのを見比べて、高粘度のものにしました。柔らかすぎるとパテになるまで、ガムテレピン成分を揮発させねばならず、処方が変わる恐れもあるので。
ラピスラズリ粉末は、11g用意してあるので、2回ほどパテづくりをしてみたいと思います。

小さなステンレスボウルに材料を全て入れたところです。
ウルトラマリン抽出

保温プレートの上で熱します。
ウルトラマリン抽出
保温プレートは、ほんとに保温程度の温度しか出ないのですが、軟質樹脂くらいは溶かすくらいの温度になります。
松脂は誤って火が着くと、黒煙を吐きながらすごい勢いで燃えるので、安全面も兼ねて、こちらでやってみたのですが、でも実はマスチックが溶けてくれるかは、ちょっと心配でした。

無事、溶けて混じりあっているようです。
ウルトラマリン抽出

保温プレートから下ろして、冷めるのを待ったのち、プラスチックのナイフで掻き取りつつ、丸めていきます。
ウルトラマリン抽出

このようなパテができました。
ウルトラマリン抽出

重さは6gです。
ウルトラマリン抽出
2g減ってますが、ステンレスボウルに残った分と、若干テレピンが揮発した分かもしれません。

2回ほど実施。
ウルトラマリン抽出
2回目では、うっかり松脂を1g多く投入してしまいましたが、そのせいで、パテが柔らかすぎて、まとめるのがすごく大変でした。バルサムを使う際は、多めに入れてはいけないと思います。また、充分さめて、ちょっと固くて取りづらいかな、という頃合いに取り出してパテにした方が、指にまとわりつかなくていいと思います。

次回は、いよいよこのパテから青い顔料のみを抽出する、という工程になります。

| 絵画材料 | 05:58 PM | comments (2) | trackback (x) |
ラピスラズリからのウルトラマリン抽出 1:ラピスラズリ粉砕
ラピスラズリという青い半貴石は世間一般でも有名ですが、かつてその石から複雑な手順で青い絵具を作り出していたということを知っている人は少ないと思います。西洋絵画では非常に重要な役割を果たしていましたが、石自体が遠くアフガニスタンからもたらされるもので稀少であり、且つ青い部分だけを取り出すのに手間がかかるので、大変高価な絵具となっていました。ラピスラズリは不純物を多く含んでおり、石を砕いただけでは、薄い空色ぐらいの色にしかならず、そこから青だけを取り出す技術が必要だったのです。今は合成で作られているので必要ない技術ですが、昔の青の価値は計り知れないものがありました。

青い部分だけ取り出した顔料をウルトラマリンと呼びます。今回の実験は、ラピスラズリからウルトラマリンを抽出する、ということになります。その抽出方法のひとつが、中世末期に書かれた、チェンニーニによる絵画技法書に記されているのですが、その方法をベースに抽出をやってみたいと思います。すでに複数の方がネットで公開されているので、この記事の希少価値は小さいと思いますが、私も参戦したいなという思いが以前からありまして。。。

主な参考資料は、「天然ウルトラマリンの抽出1」(平成十七年度共同研究報告) 金沢美術工芸大学紀要 50, 120-111, 2006-03-31です。
チェンニーニの方法によるラピスラズリ抽出について書かれておりますが、概要は上記の論文を読むのが一番だと思います。
以下よりダウンロードできます。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110004830201

その他、画家の鳥越氏が実行した際の様子がブログに公開されております。
http://torilogy.exblog.jp/tags/%E5%A4%A9%E7%84%B6%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%81%AE%E6%8A%BD%E5%87%BA/

で、ラピスラズリです。
ウルトラマリン抽出
もっと良いサンプルもあったのですが、あえて不純物の多そうなものを選びました。うまく青だけ取れるのか、見たいというのが主な目的ですし、慣れないうちに良い石を使うのももったいないので。

まずはラピスラズリをハンマー等で細かくしてゆきます。細かくする度に、青の部分が多いものを選んで、灰色の部分は除いてゆきます。
数ミリ大に細かくなったところで、乳鉢と乳棒に切り替えて進めます。
ウルトラマリン抽出
論文では磁器製の乳鉢では難しいとありましたが、少量を試すだけなので、磁器製乳棒、乳鉢で砕いてゆきます。

乳鉢を使って砕いているとわかりますが、綺麗に均一に砕けてくれるわけではありません。ときどきフルイにかけて、既に細かくなった顔料を選別します。そうしないと、細かく成りすぎて、色が弱くなってしますのです。
フィルターには、シルクスクリーン用の化繊布を使用しました。200メッシュです。
ウルトラマリン抽出
これをキャンバス用の木枠に張って、

ウルトラマリン抽出
上に粉砕した顔料を載せて揺すると、細かいものだけ下に落ちます。

ラピスラズリを挽いてはフィルターに通すという作業を、延々と繰り返すこと数時間。
こちらが、用意できたラピスラズリ粉末。5gです。
ウルトラマリン抽出
すっごい時間がかかりました。
やはり青の濃さに欠けていますが、これがしっかり青になってくれるかどうか、楽しみです。

次回はパテづくりです。
上記の論文では、松脂をロジンと解釈して進めていますが、当サイトの掲示板にて、かつてmiyabyo氏がバルサムではないかとコメントしており、確かにそちらの方が理にかなっていると思われるので、バルサムで実行してみます。

| 絵画材料 | 05:29 PM | comments (0) | trackback (0) |
膠文化研究会主催第6回公開研究会
下記のような公開研究会が開催されるという情報を頂きました。

膠文化研究会主催第6回公開研究会
http://nikawalabs.main.jp/index/?page_id=36
2014年12月13日(土)東京藝術大学美術学部中央棟第1講義室

Webサイトによると、主なプログラムは以下のようになっています。

○「膠と密接な皮革製造工程と当センターの取り組みについて」
原田 修 兵庫県立工業技術センター皮革工業技術支援センター 技術課長

○「膠製造業を取り巻く環境 ― 日本から膠が消える?」
福島 隆 宏栄化成株式会社代表取締役

○「カンヴァス目止め剤としての膠」
船岡 廣正 日本画材工業株式会社代表取締役社長

西洋絵画材料的に最も気になるのは船岡社長の講演といえますが、他2つも注目しております。
たいへん興味深い内容なので、参加申込しようと思います。

| 絵画材料 | 08:41 AM | comments (2) | trackback (0) |

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