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画材&技法 全般 (13)」からの続き。


画材&技法 全般 (14)


石材店へ行ってきました。

オーテカ さんのコメント
 (2005/09/13 16:13:15)

とりあえず気になったので、家の近くの石材店へ行ってみました。

作業着を着たおじさんが一人いたので、その方に、「厚さが1〜3センチくらいで一辺が30〜40センチくらいの白い大理石が欲しいのですが、ありませんか?油絵のパレットとして使うので表面がツルツルしてるのがいいんですけど。」と聞いたところ、30×30×1センチのビアンコカララと名称は分かりませんが真っ白い大理石(ともに天然大理石)をただで譲ってくださいました。表面はツルツルの鏡面状に仕上げてあるものです。

5分ほどで大理石パレットを手に入れ、正直びっくりしました。僕は画材店で売られている真性の大理石パレットを使ったことがないので、室内施工用の大理石による代替パレットとの具体的な使用感、仕様の違いが分からないのですが、実際のところどうなのでしょうか?使っているうちに諸問題が生じないか、少し不安です。管理人様は大理石パレットを使われるのですよね?僕の話から、もし何か感じましたら、ご意見頂ければと思います。もちろん、普段大理石パレットを使われている方や、事情通の方などでしたら、どなたでも良いので、よろしくお願いします。

最後に、ひどく初歩的な質問があるのですが、大理石パレットも木製パレットのように使い始める前にリンシードオイルを染み込ませたほうがよいのでしょうか?では、コメントの程、すいませんがよろしくお願いします。


RE:石材店へ行ってきました。

管理人 さんのコメント
 (2005/09/14 08:55:18)

オーテカさん、こんにちは。

私は石に関して詳しいわけではないですが、おそらく何の問題もないと思います。私も石材店に行ってみたくなりました。そう言えば、中学の同級生に石材店の息子が居たようなことを思い出しました。

私の大理石板の主な用途は絵具や顔料の練りの際の板としてですが、石材店に行くならむしろ御影石、斑岩等、硬度の高い石が欲しいです。というのは、現在市販されている顔料は非常に細かくて普段は不都合はありませんが、稀に粗い顔料を練ると大理石では全然駄目です。チェンニーニは大理石は軟らかく、もろすぎて役に立たないと書いていて、斑岩が最も良く、表面がなめらか過ぎないものがいいと言っています。もっとも、現代の市販の顔料を使う場合には半ば関係ない話だと思いますが、粗い顔料を水練りするような人には大事かもしれません。いずれにしてもこの用途だと表面はツルツルしてない方がいいです。また、板だけでなく手に持つ方の石も、同じ材質のもので、手に馴染む形のものにしたいです。
私はべつに石に関しても顔料に関しても詳しいわけではないので、以上は話半分程度に聞いてもらえればと思いますが、機会があればいろいろ試してみたいところです。そういう意味では石材店の人と仲良くなって、使い勝手の良いものを探してゆくのはすごくいいかもしれません。

油絵のパレットに使う分には、使ってみて問題がなければ、パレットとして使えそうなものなら、極端な話なんでも使ってみていいかもしれませんね。人工大理石の板ならけっこう大きなサイズのものがホームセンターで安く売ってますし、そういうのもいいかもしれません。または大作を描く人なら、人工大理石のデスクやカウンターをそのままパレットに使うと、使い方によっては便利かもしれません。

>大理石パレットも木製パレットのように使い始める前にリンシードオイルを染み込ませたほうがよいのでしょうか?

どうなんでしょう。石には必要ないと思いますが。それに、木の場合は見た目にもかなり味わい深い感じになりますが、白い大理石でやると、油が乾燥するに従って汚い感じの黄色になると思います。


石材による油彩パレットと石材店

オーテカ さんのコメント
 (2005/09/15 06:34:47)

管理人様、お忙しいところ早々にお返事して頂きありがとうございました。

石材店の方の話では、大理石は多少なりとも吸水性や吸油性があるらしく、下手に大理石にこだわるより、強い撥水性や落としてもちょっとやそっとじゃ割れないほどの高い硬度がある、タイルなどに使われる人工石のほうが油彩パレットに適しているのではないかとのことでした。

顔料の手練り用の板について興味深い話を聞かせて頂きありがとうございました。やはり、大理石以外の石材も安く入手できるのであれば、いろいろと試してみる価値がありそうですね。

リンシードオイルによる大理石の黄変については、恥ずかしながら管理人様に指摘して頂くまで気づきませんでした。譲って頂いた、名称が分からなかったほうの純白の大理石はシベックという大理石らしく、危うくリンシードオイルを塗布して、黄色い大理石にしてしまうところでした。

石材店の方は石材の特性・性質についてとても詳しく、こちらの質問にも十分対応してくださいました。画材店で売られている産地だけ記され、名前や性質が分からない大理石を1万円前後の価格で買うより、石材店の方を信頼したほうがずっと理にかなっているかもしれません。餅は餅屋じゃないですけど、石は石材店ということなのでしょうか。では失礼しました。


タイルパレットについて

マーブル さんのコメント
 (2005/09/15 09:01:36)

 タイルについてのコメントがあり興味深く読ませていただきました。以前、知り合いのものにタイルパレットがあれば、形や色が自由に作れるのできっと、特許を取れるのではと話したことがありますが、既に既成のものを使用するのは無理だと言われました。
 画材メーカーで既に出ているそうですので、また、調べようと思います。


油絵の具の手練り

オーテカ さんのコメント
 (2005/10/12 23:11:30)

初めて、練り棒と大理石板を使って、油絵の具のシルバーホワイトを手練りしてみたのですが、30分程練り合わせても非常に細かいダマが残ってしまいます。展色材には乾性油にスタンドオイル、ベネチアテレピン、フラマンシッカチフを少量加えたものを使用しました。市販の絵の具のように均質に練り合わせるこつを教えて頂けないでしょうか?よろしくお願いします。


こーひい さんのコメント
 (2005/10/13 18:39:51)

5年ぶりにこのサイトを開きました。当時の私のメールがのこっており、非常に懐かしくその頃の空気を思い出しました。そして私の非常に拙い質問にも皆さんにとても親切に答えていただき、今見てもありがたく思います。しかしすごく質問、回答のレベルが高くなっていますね〜。ヘタに質問できませんね。笑
またちょくちょく来たいと思います。


こーひい さんのコメント
 (2005/10/15 13:32:25)

私がホワイトを手練りする場合は、ペインティングナイフを使っていました。なかなか使いやすかったですよ。


ペインティングナイフで手練り

オーテカ さんのコメント
 (2005/10/16 19:04:46)

こーひいさん、コメントありがとうございます。

僕も今は大きなペインティングナイフを使って練り合わせています。ガラスの練り棒が結構使いづらかったので、そういや、昔、予備校の講師がゼッキの絵の具職人は巨大なペインティングナイフを使って絵の具を練っているって、言ってたような気がした(かなり曖昧な記憶ですが)のを思い出したので、ペインティングナイフで練ってみたらいい感じでした。

体質顔料を入れて腰を与えたりとか、いろいろ実験しています。手練り自体は思っていたよりも結構簡単でしたけど、シルバーホワイトや一部の土性顔料は時間を掛けて練っても、粒子が粗い感じがします。


油絵具の手練りにまつわること

miyabyo さんのコメント
 (2005/10/17 05:37:52)

久しぶりですね、オーテカさん。

絵具の手練りをある年数やっている者が集まってこうしたことが話題になれば、相反する話も必ずあるものです。
手練りの紹介を含む書によっても同様のことが言えます。
以下記すことも、そうした中のひとつと思ってください。

1.シルバーホワイトは、それ専用の練り盤と練り棒(石、ガラス)を使用することを薦めます。先人の知恵です。

  私は大理石盤4枚と斑岩製の盤1枚を手練り用に使い分けています。
  花崗斑岩盤は主に鉱物性顔料に、大理石盤は、白、黒、有色とに分けます。
  ちなみに、W&N社では、手練りが必要な場合はもっぱら大理石より硬い花崗岩製が使われています。

  使用する前に、使用する展色剤を布に染みこませて、石盤の表面をさっと拭いておきます。

  先のレスに大理石盤の話題がありましたので、ついでに書きますと、私は石材屋や石材加工業者から入手しました。
  日本では、非結晶質の石灰岩(堆積岩:ライムストーン)も更に進んだ結晶質の大理石(変成岩:マーブル)もまとめて
  大理石といって売られることが多く、そのために変成岩の一種である大理石を結晶質石灰岩といったりします。
 かく言う私も、2枚はイタリア産のビアンコカッラーラなのですが、石のことをまったく知らない頃
 に買った他の2枚は国産の石灰岩でした。マーブルの方がやはり優れています。石材屋で購入する時
 は、確かめて買うことを薦めます。
 また、建築の化粧板用に仕上げまでピカピカに加工されたものは、あまりに平滑すぎて練り棒が吸
 い付きやすく、思うように練り辛い傾向があります。粗加工したものを買い、自分で240〜320番程
 度の耐水サンドペーパー又は砥石で磨くことを薦めます。


2.白に用いる乾性油は、一般的には黄化を懸念してポピー油が良いとされていますが、私は自分で加工したリンシード油も使います。ただ、手練り用の展色剤に予めフラマンシッカティフは使っていません。

  それは、溶油を調合する段階で使えばよいと考えています。特に鉛白の場合はなるべく展色剤はシンプルにしています。
  その他の色材には、蜜蝋や金属石鹸(ステアリン酸マグネシウム)、又レーキ系の場合更にアルミナなどを添加すること
  があります。
  また、特に黒系顔料には、鉛系又はマンガン系の乾燥促進剤を加え、更に、防黴剤も加えます。
  私は、象牙を焼いてアイボリ黒を作りますし、ピーチ黒やヴァイン黒も桃の核、葡萄の若枝を炭にして作りますが、黴易い
  ので(特にアイボリ黒)、防黴剤は必需品です。

  乾燥剤:ナフテン酸コバルト、硫化亜鉛七水和物、二酸化マンガン、一酸化鉛など

  防黴剤:ペンタクロルフェノール(片山化学工業株:粟粒大の顆粒状で売っていますが、粉末を吸い込まないよう注意) 
       油絵具用で、ペトロール又は筆洗油で希釈し、3%溶液にして用います。25mlチューブ相当に対して4〜5滴。
       (因みに、テンペラ用は、ペンタクロルフェノールナトリウム(石津製薬株)精製水で3%の溶液にして用いる。)
  ※上記の乾燥剤及び防黴剤は、試薬品を扱っている薬局や薬品卸業者から入手可

  油絵具には、18世紀半ばあたりまで蝋を加えないのが普通でしたから、油以外用いない絵具を作って描いてみるのも
  面白いかもしれません。
  ラングレは、特に鉛白は、人工ウルトラマリンとともに蝋の添加は「絶対的に必要」としていますが‥‥


3.色材によって吸油量が極端に異なりますから、一色ごとに必ず配合比・吸油量等のデータをとっておきます。

  鉛白の場合、大雑把には10〜20%の吸油量で、手練りの場合は15〜20%、つまり、100gに対しておおよそ
  15〜20g油が必要になるでしょう。
  一方、土系顔料(例えばイエロー・オーカー)等は、50〜70%もの吸油量があります。
  多くの吸油量は20%前後ですが、製品のグレードにも左右されますし、また個人の粘度の好みなどもあるでしょう。

  既に、参照されておられるかもしれませんが、日本語で、吸油量を示してある例として二書、紹介しておきます。
  ●寺田春弌『油彩画の科学』(初版1969年)改訂新装版 三彩社1975年
  ●飯田達夫「研究:油彩画の技術 5.絵具の構成要素」アトリエ726 1987(pp.62-68)

  ※吸油量は特に乾燥顔料の粒子の大小に依存しますから、あくまで目安とし、自分のデータを作ってください。
   なお、土系顔料の手練りは、かつて≪技法書全般≫スレッドで「絵画技法書抄」としてご紹介した
  ●Thomas, Anne Wall,“Colors from the Earth −The Artist’s Guide to Collecting, Preparing, and Using Them”, New York Van Nostrand Reinhold Company(1980)
   などが有益でしょう。


4.石盤に置いた乾燥顔料に、データに基づいて用意した展色剤の2/3程度注ぎ、鉛白なら30分ほど、土系顔料の黄土なら1時間弱放ってiいます。

  顔料と展色剤がなじんだところで、一度突き崩しながら全体を更になじませます。パレットナイフも効果的です。次に8の
  字を描くように練っていきます。
  練る時は、力任せに練るのではなく、練り石(私は重量1Kg程度の直方体の石を使います)の重さのみを使って石を動か
  します。そして、必要に応じて残りの展色剤を加えます。
  ランプブラックなど一部の乾燥顔料は、事前に無水アルコールでなじませると作業がしやすくなるでしょう。
  現代の市販されている乾燥顔料は、昔日の顔料と異なり、かなり粒子が細かいので、30〜40分も練れば十分であろうと
  思われます。

  ※展色剤の投入は、そば打ちのように最初の段階にすべて入れる人もいれば、私のように小分けする人もいますし、もっ
  と小刻みにスポイドなどで数滴ずつ入れる人もいます。


5.上記の作業は、暑い日や湿度の高い雨の日は避けます。
  また、乾燥顔料は語句通り、よく乾燥させたものであることが肝要です。


6.練り終えたら、空のチューブ(絵具メーカーから入手可)、又は水を張った器(但し短期間)で保管し、石盤はペトロール又は
  筆洗油でよく拭き取る。

  
7.≪市販の絵の具のように均質に練り合わせるこつ≫と書かれていますが‥‥

  市販の絵具は、特殊な品でもない限りまず手練りではありませんので(ミルを使用)、市販品のようにはならないと考えた方が
  良いのですが、以上書きましたことなどに留意すれば、随分改善されるはずです。


 ≪体質顔料を入れて腰を与えたりとか、いろいろ実験しています。≫とのことですので、手練り全般を略述しました。 


RE:油絵具の手練りにまつわること

オーテカ さんのコメント
 (2005/10/18 20:54:10)

miyabyo様、お久しぶりです。レス、本当にありがとうございました。今回のmiyabyo様のコメントはそのまま、美大の油絵具の手練りのテキストに使えるのではないかと思う程、素晴らしいものでした。

まず、僕が絵の具の手練りを始める際に参照した書籍はラングレの本と飯田達夫さんの雑誌アトリエの連載記事でした。何となくどちらも同じような処方が紹介されているなぁと思っていたのですが、飯田達夫さんはラングレに師事していたことがあるそうですね。飯田さんの連載記事はデッサン特集に移行する直前辺りまで全てコピーして持っていました。

今回、miyabyo様が紹介してくれた寺田春弌さんの本は大学の図書館で何度か見かけたことはあったのですが、目を通したことがなかったので、一読してみようと思います。

miyabyo様のコメントが完璧すぎて、僕のほうから言うことは何もないのですが、少々分かりづらかったことや、その他、手練りや手練りに関わることで質問させてもらえないでしょうか?

もし、僕が自分で調べるべきだと思われましたら、正直にそう言ってもらって全く構いませんが、もし僕のようなアホな画学生には調べるのが無理だと思われる項目がありましたら、少し助言して頂けないでしょうか?

まず本文から、<石盤に置いた乾燥顔料に、データに基づいて用意した展色剤の2/3程度注ぎ、鉛白なら30分ほど、土系顔料の黄土なら1時間弱放ってiいます。>ですが、これは例えば、顔料の真ん中にくぼみを作り、そこに展色材を注いだ状態で相応の時間放っておくということでしょうか。それとも、顔料を展色材で軽く練り合わせてから放っておくということでしょうか。

<練り石(私は重量1Kg程度の直方体の石を使います)>はどのように入手すればよいのでしょうか?僕なりに推測すると、石材店に特注で作ってもらうとか、自分で何らかの道具を使って石を好みの大きさにカットするとか、既に練り石に適した大きさの石がホームセンターで売っているとか、いろいろ思いつくのですが、直接、miyabyo様にお聞きして答えてもらうに越したことはないと思いましたので、質問してみました。

最後に、miyabyo様が掲示板で書かれていたことがある、<昔日の画家の中には絵具にコシを与えるため石灰、炭酸カルシウムを加えていた人がいる>ですが、印象派以前の画家の間でどの程度、行われていたのでしょうか?単純に考えると、絵具を盛り上げたり、筆跡が強く残っているようなマチエールの絵を描いていた画家がよくそういう絵具を使っていて、平滑なマチエールの画家は油と樹脂のみ加えていたのではないかと思うのですが、現在、昔日の巨匠の展色材等について、どの程度分かっているのでしょうか?

こうしてmiyabyo様に手練り全般について教えて頂いた後で、自分がどれだけ闇雲に訳も分からず手練りをしていたか心底実感しました。

本来ならば、大学教員に聞くべきことをこうしてネットを通じてmiyabyo様に教えて頂いていると、現在、美大、芸大で指導者を名乗っている教員の中に、いったいどれだけ技法全般について指導できるものがいるか甚だ疑問に感じてしまいます。

では、これからもご教示お願いします。失礼しました。


手練のご質問について

miyabyo さんのコメント
 (2005/10/22 22:50:09)


簡単にお答えしておきます。

ラングレも飯田達夫さんもネタは
●Thièle, Ivan G.,“Préparation des couleurs, des vernis et des toiles”, Paris, 1935
ですね。わずか160頁ほどの小冊子ですが、画布への膠塗り・地塗り、顔料別絵具の作り方、ワニスの調合などが、単なる概説に終わらずにその配合比をも示してあるので、手作りを望む方には手始めに読んでもいい書のひとつでしょう。

また、ラングレが参照した他の書に
●Coffignier, Ch,“Nouveau Manuel du Fabricant de couleurs”, Bernard Tignol, Paris, 1908
●Coffignier, Ch,“Manuel du peiture. Couleurs et vernis”, Bernard Tignol, Paris, 1925
がありますが、こちらはタイトルから分かるように絵具製造業者向けの絵具やワニスの配合比マニュアルで、オープンに書いてあります。単位がさすがにkgです。
現代のメーカーの製造をイメージするには古い部分も多いですが、ティエールと同じ時代の機械練りとの違いを知る上では面白いかもしれません。



◎≪<石盤に置いた乾燥顔料に、データに基づいて用意した展色剤の2/3程度注ぎ、鉛白なら30分ほど、土系顔料の黄土なら1時間弱放ってiいます。>ですが、これは例えば、顔料の真ん中にくぼみを作り、そこに展色材を注いだ状態で相応の時間放っておくということでしょうか。それとも、顔料を展色材で軽く練り合わせてから放っておくということでしょうか。≫

≪顔料の真ん中にくぼみを作り≫と同じことですが、石の面が見えないようにはしています。
乾燥顔料に油が染込むところやそうならないところなどムラもできるでしょうが、気にせず放っています。
この段階では一切≪軽く練り合わせる≫こともしません。

最初からガンガン練っていってもよいのでしょうが、顔料にある程度油が回らないことには、石盤も傷がつき易いですし、その時間がもったいないような気でいます。とにかくなじむまで放っています。
顔料が油を吸う「見かけ」に惑わされて油を注ぎ足すと、その後に練りの途中で「戻り」といって一旦吸った油を顔料は吐き出しますから、ゆるい絵具になりがちです。
私はその「戻り」具合又はなじみ具合を見ながら残りの油の注し量を決めます。そのために油は一気に全ては入れません。



◎≪<練り石(私は重量1Kg程度の直方体の石を使います)>はどのように入手すればよいのでしょうか?≫

オーテカさんと同じように、石材屋でタダでいただきました。
自分で加工する手間がなるべくかからないように、面切りしてあるものを選んで拾っています。それを練り盤との接面だけある程度ひかかりのある粗さに加工して使います。

寸法を測ってみましたところ、練り棒は10×10×7cm(最も大きい石盤は50×50×2cm。こちらは指定して石材屋で購入)です。
この他にも、クズ石から作った様々の寸法の練り棒が10本以上ありますし、ガラス製のものもいくつかあります。
作る量や顔料の色に応じてmullerは使い分けています。たまたまタダで頂いたのもが多いのでわがままに使っているともいえますが。
 


◎≪<昔日の画家の中には絵具にコシを与えるため石灰、炭酸カルシウムを加えていた人がいる>ですが、印象派以前の画家の間でどの程度、行われていたのでしょうか?≫

これを実証するのは、私のような「現場」にいない者には困難です。間接的なことしかお話できません。

メジュームに炭酸カルシウムが使われていたのかどうかについて日頃気にして「報告書」を読んでいるわけではありませんが、
炭酸カルシウム(白亜)が絵画層(下地層ではなく)で見つかっているのはルーベンスです。

例えば『十字架昇架』の右翼裏の白及び淡い灰色をした建造物から採取したサンプルのクロスセクション(以下CSと略)で、

  「インプリマトゥーラの上に直接:おそらく若干の白亜及びスマルト(アズライト?)の痕跡を伴う鉛白。」p.67

  「油を基調とする15〜30㎛のインプリマトゥーラに、鉛白、植物炭黒(白亜を含む?)」p.70

という報告が
●Peter Paul Rubens’s Elevation of the Cross. Study, Examination and Treatment, Bulletin XXIV, Institut Royal du Patrimoine Artistique Koninklijk Institut voor het Kunstpatrimonium, 1992.
にあります。

この場合の白亜は、どちらもインプリマトゥーラ層のすぐ上の層にあるのみで、しかもその他のCSでは、実質的な絵画層は言うに及ばずインプリマトゥーラ層にも見当たらず、メジュームに使用されたという証左としては、まだ根拠に乏しい。
仮に、乾性油を基調とする複数の絵画層の、しかも盛り上げ部分で白亜が同定されれば、メジュームに白亜が意図的に使用されたことの証明になるかもしれません。なぜならば、膠絵のように、白の色材として使用することは、乾性油の屈折率からしてほぼ透明化し、まったく無意味であるのですから。(絵具に練りこんであったのか、メジュームに入っていたのかの判定をどうするかはあるでしょうが)

  ※現在、顔料の同定をする際によく使われる方法のひとつが蛍光X線分析ですが、この装置で
   分かるのはあくまでも含まれる元素のみで、顔料名がぴたりと出るものではないのです。
   予め分かっている顔料の元素データと、蛍光X線分析情報を比較して、最も蓋然性のある顔
   料を推定するのです。ただ、この分析には、絵画から採取された試料を人工樹脂などでバ
   インドして薄くスライドされたクロスセクションを流用するのが普通なために、どうして
   も他の顔料の元素も邪魔することがあったりします。
   (いくつかの顔料ラピスラズリを蛍光X線分析にかけて比較したことがありますが、洗浄が
   不十分で、とんでもない元素がデータに現われたことがありました)
   
   保存修復を施す上で必要と思われるサンプリングは、必ずしも絵画技法を研究する上で欲
   するサンプリングと一致しているわけではありませんので、不満の残るサンプリングが多
   いというのが実態です。
   両方を兼ね備えた人物はなかなかいないということもありますし、サンプリングは、一義
   的には「保存」する行為の一部であり、技法を知るためにサンプリングするわけではない
   のですから。それでも少しずつではありますが、歩み寄りがあります。


   修復家(特に化け学系)、美術史家、絵画技法研究家などがチームを組んで、総合的にある画家の技法を研究
   するという手法がとられ始めたのはごく最近のことです。

   その例として挙げれば、
  ●Shearman, John / Hall, Marcia B. (editor), The Princeton Raphael Symposium : Science in the Service of Art History
   (Princeton Monographs in Art and Archaeology, Vol. 47), Princeton, NJ, U.S.A.: Princeton University Press, 1990.

    ラファエロの技法などをまとめて知るには、現時点では唯一の書(単発的な報告書は別にありますが)。
や、
  ●Gaskell, Ivan & Jonker, Michiel,“Vermeer Studies”, Studies in the History of Art 55, Center for Advanced Study
   in the Visual Arts Symposium Papers XXXIII, National Gallery of Art, Washington, Yale University Press, New Haven
   and London, 1998.

    この中には、技法のみでなく「フェルメールはどこで画材を購入したか?」などという考察もあります。
    フェルメールを語るときに美術史家が使う定番といえば、
  J. M.モンティアス『デルフトの芸術家と職人―17世紀の社会経済研究―』1982年 邦訳なし
  J. M.モンティアス『フェルメールと彼の環境―経済史情勢―』1989年 邦訳なし

    がありますが、フェルメールの技法を語るならば、せめてこの『フェルメール研究』には目を通してから
    にしてほしいと思ったりします。


話を元に戻せば、白亜が絵画層で発見されたことと、絵具にコシを与えるために白亜(石灰)が使用されたであろうことが、現時点で直線で結びついているわけではいないことは、以上のことでご理解いただけるでしょうか?

その上で更に付け加えていくならば、
少なくとも18世紀半ばまでの染料系顔料の体質(body)には、石灰が利用されることが一般的でした。つまり、石灰をレーキで染めて滲み止めを施したものを顔料として使用した。にも拘わらず、レーキ系の顔料同定では、当然出てもいい炭酸カルシウムの痕跡が見られない(正確にいえば、あるかもしれませんが私はそうした報告書を見つけていません)。

 染料系顔料に白亜が使われた例として、チェンニーニの『絵画術の書』とおおよそ同じ頃の北方の画術を伝える
 書に『シュトラスブルグ手稿』がありますが、この中に次のような処方があります。
 (随分前に訳したものなので保証の限りではありませんが)。

 9.〈ブラジルウッドのピンク〉
 もしピンク色が作りたければ−その最初から終わりまでの全工程は−ブラジル・ウッドの削り屑1/2オンスと
 明礬を粉状に細かく挽いたもの1/2オンス用意せよ。次に同量の白亜を取り(* 英訳ではadd)、これも同様に十
 分に挽くがよい。そこでそれぞれの材料を小盛りにしておき、グラスを取って明礬を少量振り掛け、そのあ
 とに同量の白亜を、それから同量のブラジルウッドを振りかけて、そこによく泡立てた卵白をそれらが覆わ
 れるまで注げ。混合物を8日間そのままにしておき、次に陶製の容器に布漉ししてから、それを暖かい場所
 で乾燥させる。乾いたものは拾い集めて袋に保管し、それを使いたいときは蒸溜水で希釈せよ。

 このように油彩用には白亜が使われた。ついでながら、レーキ系の水溶性絵具を作る場合は、英訳では「クロスレット」
 「ラグカラー」といって、使い古しのテーブルクロスなどの布切れに染料を染込ませ、使うときはそれを水で戻した。その
 方法も『シュトラスブルグ手稿』に載っています。


また、絵具の量産化の時代に入り、増量剤としても石灰が使用されてきたことは既成の事実です。この増量剤は蜜蝋などとともに粘度調整の役割もあった。これがいわゆる「コシ」「キレ」というものです。

つまり状況証拠はあるものの、現時点ではこれというめぼしいオールドマスターの作例が見当たらない。見当たらないが、1500年代の絵にその組成がはっきりしない透明のゼリー状の物質がパレットに描かれている‥‥。

こうしたことが、マルク・アヴェルのメジュームが「創案」といわざるを得ない事情というものではないでしょうか。
しかしながら、「メジュームフラマン」(マスティック樹脂+焼いた乾性油+石灰+一酸化鉛)は、以前にも書きましたが、彼らが日常使用していたヴィヒクルのバリエーションのひとつに石灰を足しただけですし、当時彼らが身近に使用できた材料を考慮すれば、炭酸カルシウムは十分にありうるのかもしれません。今後の調査に期待しなければなりません。




◎Paint mediaについて
≪現在、昔日の巨匠の展色材等について、どの程度分かっているのでしょうか?≫

過日のPaint mediaがより詳しく分析できるようになったのはここ最近です。
ロンドンナショナルギャラリーは特に熱心で、発刊されているTechnical Bulletinは、その第1巻目の1979年から断続的ながら、「Analyses of Paint Media」の項目を設けて、様々な時代の画家の絵具展色材について分析しています。
また、各巻の特集報告書でもその分析が生かされています。
今年で25巻目となりますが、初期の分析と比較すると、分析が更に突っ込んだものになっています。
例えば、
以前であれば、
マリアの赤いローブ 油 タイプ:リンシード油 
白の衣服       油 タイプ:クルミ油

といった表現が
マリアのドレスの蔭の赤いグレーズ部分  焼いたリンシード油に少量の軟質樹脂
背景の白い雲                  焼いたクルミ油に少量の松脂
というような表現になっています。

また、17世紀の画家の絵に施された19世紀頃のワニスの項目には、
19世紀以前 マスティック樹脂+ アフリカン・コパル樹脂 +焼いて重合させたリンシード油
1891年    マスティック樹脂 + エレミ樹脂
と、実に具体的です。

とはいえ、当時のpaintmediaを再構築するのは難しい。仮に材料は分かったとしても配合比を知ることはまず無理なのですから。 
致命的なことは、テレピンやペトロールなどの揮発精油の情報は探れないことです。


以上、的を得た回答にはなっていないでしょうが、簡単にお答えしました。  



≪現在、美大、芸大で指導者を名乗っている教員の中に、いったいどれだけ技法全般について指導できるものがいるか甚だ疑問に感じてしまいます。≫

と、オーテカさんは嘆いておられるわけですが、
それは、日本語だけで西洋絵画やその技法を考えるには限界があるという風に、私は捉え直してみたいのです。
 
私は最近、他のスレッド(チェンニーニ『芸術の書』)で、チェンニーニの書き残した情報が生きていた時代の「ゲッソ・グロッソ」は、実際には何が使用されていたのかを書いておきました。
参考文献を発表年代順に書いておいたのは、ゲッソ・グロッソが天然無水石膏や、人工的に焼かれた可溶性無水石膏を基調とするものであることが、どのようなプロセスでわかってきたのかが辿れること、そして、その後大まかに言えば10年は経過しているにも拘わらず、日本では相変わらず二水石膏だと思い込んでいる情報発信者ばかりという現実の差異を感じていただきたいという思いも込めておきたかったからでした。

また、
私もヨーロッパの美術館を訪ね、多くの作品を見ていますから、現地まで行って作品を見ることの大切さは実感しています。しかしながら、後世の度重なる保存修復的処置による絵面から得られる情報では限界があることも実感しており、だからこそ、単に絵画の表層からのみの情報で絵画技法というものを語ろうとすることの脆弱性を、私はこの場をお借りして言い続けているつもりです。
では何で補っていくのかという例も、極力文献を挙げてきましたから、その気になれば私のリスクに比べればはるかに少ない労力で知ることもできるわけです。

美術教育に携わる人材はかなりの人数だと思うのですが、多分論争ひとつ起こりにくい平和な国なのかもしれません。
私よりもはるかに恵まれた環境におられるであろうに、もったいないことです。

オーテカさんと歩調を合わせて少し嘆いてみました。


画材&技法 全般 (15)」へ続く。


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