『西洋絵画の画材と技法』 - [基礎的な解説]

毒性と火災への注意

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絵具の毒性

絵具やその他の絵画材料の中には、人体に有害な物質が含まれていることがあります。毒性のある絵具も、画材店で簡単に買うことができます。油絵具ではカドミウムイエローカドミウムレッドバーミリオンシルバーホワイトなどが毒性のある絵具の代表格です。市販の画材には、毒性やその他の安全性に関する表示あり、一目で確認できるようになっています。右の有害性マークは、ルフラン&ブルジョア社の画用液に表示されているものですが、日本の画材メーカーでも同様のものが使われています。ドクロマークが使われることもあります。

しかしながら、通常は作業後にきちんと手を洗い、道具類を清潔に管理しておけば、人体に悪い影響を与えるほどの毒物ではありません。毒性のある材料と言っても、絵具以外にも、家庭にある様々なものに使われているものと同レベルのものであって、無闇に恐れるほどのものではない。過去には毒性のたいへん強い材料もありましたが、そのようなものは現代では使用されなくなっています。市販の絵具を普通に使用したぐらいでは、よっぽどおかしな使い方をしない限り、人体に害を与えるようなことはないレベルと言えます。ただし、小さな子供のいる家庭では、あやまって飲みこまないように厳重に管理しなければなりません。また、妊婦がいる家庭でも、後述する揮発性溶剤の使用も含めて、ある程度の気遣いが必要であろう。食器を洗う流しで一緒に筆を洗うなども、止めておいた方がよいでしょう。

顔料を扱うときは、空気中に飛び散った顔料を吸い込む可能性が高いので、特に注意してください。顔料を使用する作業は、できれば生活空間と区別された専用のアトリエを用意し、作業服を着用の上で行なうのが望ましいと言えます。特に毒性のある顔料を扱う際は、マスクを着用のこと。また、使用済キャンバスを紙ヤスリで削って再利用しようとする人がいますが、その場合も顔料が飛散するので気を付けてください。描いた絵を燃やすなどの行為は、使用した絵具によっては有毒なガスを発生させる可能性があります。

テレピン等の有機溶剤も人体に害を及ぼす。狭い部屋で使用し吸気する場合、絵具の毒性よりも、溶剤の影響を心配するべきかもしれません。毒性のある絵具を使って、いきなり気分が悪くなるというのは考え難いことですが、テレピンを使用して気分が悪くなるということはあり得ます。最近は、室温を下げない換気扇などもあるので、アトリエが狭い場合は導入してみるとよいでしょう。どうしてもテレピンが体質に合わない場合、ペトロールの方がおだやかなので、替えてみるとよいかもしれません。

絵具を捨てるとき

現代の絵具事情においては、むしろ周囲の環境に関する配慮の方が大切かもしれません。廃油や残った絵具を不用意に下水に流すのはたいへん良くない。使い切った絵具のチューブなど、有害な物質が付着しているものは、有害ゴミ収集日に指定の方法で出す。ある程度の規模の絵画教室を運営する際は、きちんとした廃棄経路なども手配するべきかもしれない。毒性の絵具と言っても、特別なものではなく、昔から身近に存在した顔料がほとんどである。シルバーホワイト(鉛白)は19世紀に新しい白が開発されるまでは、油絵具で使える唯一の白だったもので、これがなくては油絵の魅力が半減すると言ってもよい。

筆洗に使用するブラッシクリーナーを廃棄するにはどうしたらいいか、という質問を受けることがよくあるが、筆洗器を使用していれば、顔料などの主な汚れは下に沈んでゆくので、べつに捨てなくてもかなり長い期間試用することができる。どうしても捨てたい場合は、布や新聞紙に吸い込ませるか、あるいは固めて廃棄できるような商品が売っているので、それを使用するのもよいかもしれない。いずれも火気には充分注意が必要。油絵具の場合はほとんどの汚れを筆洗器で落とすので、下水に有害物質が流れ出す量は少ないとも言える。逆に比較的安全な絵具が多いアクリル絵具や水彩絵具は、筆洗バケツの水も流しに捨てるわけで、環境への負担がかえって大きい可能性も指摘されている。最近は、アクリル絵具使用で出た汚水を固めて捨てるという商品なども出てきている。

有害な絵具のついた紙パレットや雑巾、使い終わった絵具のチューブなどを捨てるにはどうしたらよいか、という質問もある。これは、有害ゴミの日に指定の方法で出すのが良いかと思う。詳細を町の役所などに問い合せるのが筋なのだが、実際に問い合せても画材の捨て方まで指示してもらえる確立は低い。例えば蛍光灯には水銀が使用されているが、このように普段の生活の場でもさまざまな有害物質が使用されていて、それらの廃棄方法もそれほどしっかり確立されているわけでない。有害絵具使用者のような、極めて範囲の狭い領域では、自己がしっかり管理する他ないかもしれない。

溶剤・乾性油の引火、自然発火

テレピン、ペトロール等の溶剤、乾性油など、油絵具の画用液は引火性なので、火気に注意してください。タバコの吸い殻と、画用液や絵具が染み込んだボロを一緒のゴミ箱に捨てる人がいますが、これは危険きわまりない行為です。なお、飛行機に乗る際、機内持込みできない場合が多いので注意。

油絵具の乾燥は化学反応なので、微量の熱が発生します。通常は大した温度ではありませんが、シッカチーフなどの乾燥剤を使用した場合は、高い温度になり、テレピン、乾性油、シッカチーフなどが染み込んだチリ紙やボロ布などを放置しておくと、発火する可能性があります。そのようなものを捨てる際は、水を染み込ませるなどしてからゴミ箱に入れてください。

本サイトでは、加熱器具を使った作業がいくつか紹介されていますが、乾性油や溶剤を加熱する作業は危険を伴う行為であると認識した上で行なってください。必ずそばに消火器を準備し、火のそばから離れないようにすること(本サイトで解説されている作業を行なって起こった火災や事故、傷害等に関して、本サイトは一切補償できません)。

本サイトでは、乾性油を精製・加工する作業において、水と油をガラス容器に入れて太陽光に晒す作業を再三紹介していますが、光線の集中による火災に注意してください。いわゆる「収れん現象」と呼ばれるもので、水を入れたガラス瓶やペットボトル等がレンズの役割を果たし、太陽光を集中させ、近くに燃えやすいものがあると発火させてしまう恐れがあります。特に冬場は太陽光が低い角度から差し込むので、設置場所の広い範囲で気をつけなければなりません(できればコンクリートの床や壁の側で行なうのが望ましい)。


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最終更新日 2007年11月16日

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