本頁では生の乾性油を「日光に晒す」「火を通す」等して、加工を加える方法を紹介。本頁を読む前に、予め「乾性油」及び「乾性油の精製」を通読のこと。
加工油の代表的なものと言えば、サンシックンドオイル、スタンドオイル、ボイル油等が挙げられるが、このうちサンシックンドは個人でも比較的容易に可能で、市販品にない利点もあることから、多くの画家が自製している。
太陽に晒すと同時に、空気にも触れさせる加工方法で、酸化が進み、素早い乾燥、ねっとりした粘り、黄変の少なさが特徴である。容器に水を張って、そこに薄い油の層ができるようにした状態で長期間太陽に晒される。水との親和性が良く、テンペラグラッサ等のエマルジョン技法の媒材としても適している。市販品は、最後に、完全に水分を除去するためにボイルされるので、濃い褐色になっているが、自製品はその工程を省けば透明なサンシックンド油を手にすることができる。
通常はリンシードオイルを使用すると思うが、ポピーオイル、ウォルナットオイル、あるいは乾燥の遅いスタンドオイルをサンシックンドして使うということもありかと思う(ただし、かなり高粘度なので、生のリンシードオイルで割って行なった方がよいかと思う)。未精製のコールドプレスド油を使用する場合は、「乾性油の精製」を参考に不純物を十分取り除いておくこと。
■作業手順
幅の広いガラス容器に水を入れ、その上に薄く油の層ができるようにする。バットや水槽などがお薦め。2cm前後の層が良いかと思う。容器の上には、ゴミやホコリが入らないように、かつ太陽光は通すように、ガラス板などでフタをするが、その際、空気を遮断しないように、十分な隙間を空けておく。軒下など、雨は当たらないが、太陽の光は良く当たる、という条件の場所に置く(サンルームがあればそこが最適なのだが、油の酸化する臭いがキツイので、室内での実施は家族の理解を得られないだろう)。下の写真は、正方形の水槽に、鍋のフタ(ガラス製)を被せた例。鍋のフタは湾曲しているので、空気を通す隙間ができるし、雨はけも良く、取っ手が付いているので、後述の作業をする上でもなかなか便利である。
水と油を、たびたびかき混ぜる。毎日、かき混ぜないと表面が乾燥して膜ができてしまうからだが、オイルと水が交じり合うことも重要である。水槽用のポンプを入れて、水とオイルを常に循環させるというアイデアを聞いたことがある。季節によって異なるが、2〜3ヶ月ほど太陽に晒す。長く晒すほど粘度が高くなる。どれくらいの期間晒すかを各自の好みで調整できることも、自製の利点のひとつであろう。
十分に晒したのち、上の油だけを回収する。日晒しの工程で、虫やゴミが混入していることが多いので、布などのフィルターで漉して、それらを排除しなければならない。まず、お玉ですくうなどして、ろうと(漏斗)に円錐上にろ過紙を置いたものを通すとよい。粘度が高いのでなかなかフィルターを通らないが、あせらずにじっくり待って集める。はじめのうちは、オタマで油だけをすくうことができるが、油が少なくなるに従い、水を残して油だけ取るのが難しくなっている。最後の方は、水と一緒に油をすくいだし、コーヒーフィルターを載せた漏斗に注ぐと、先に水が全部流れだすので、その後にゆっくりと垂れてくる油だけを容器に移すという方法が簡単である。または、ポリ容器などに水と混ざった油を入れ、冷凍庫に入れると、水だけ凍るので、上澄みの油を注ぎ出すという方法もある。水は凍ると体積が増えるので、ガラス容器を冷凍庫に入れるのはあまりお勧めではない。多少柔軟性のあるバットを使っていた場合は、バットごと冷凍庫に入れてしまうと簡単である。
サンシックンドオイルは、内部に水分を含んでおり、長期保存すると容器の中で反応して圧力を生じ、瓶などの容器を割ってしまうことがあるという。ちなみに私の場合、ポリ製の容器に入れてたものが変形したことがあったが、瓶が割れたことはない。商品として出荷したり在庫したりすためには、ボイルして水分を飛ばさねばならないそうだが、代わりに褐色の色が付くなど、性質上さまざまな変化がある。サンシックンドオイルを自製する理由の大半は、ボイルしない状態のものを得られる点にある(ただし、必ずしもボイルしたものが悪いということではなく、どちらもそれぞれに長所、短所があるわけだが)。
油彩技法において乾燥が速く丈夫な被膜を作る鉛白を加えて、煮て作るオイルである。ブラックオイルの名称のごとく、真っ黒いオイルができる。ブラックオイルは極めて乾燥が速く、丈夫な皮膜を作る。見た目は漆黒だが、透明度があり、絵具に混ぜて画面に塗布する際には、さほど気にならない。ただし、乾燥するに従って、色調が暗くなる傾向があり、ときにかなり脂っぽい色になる。暗変化を予測して、描画時に若干明るく青い色を使うことをマスターすれば、たいへん優れた画用液となる。日本では、J・シェパードの『巨匠に学ぶ絵画技法』により、広く知られるようになったかと思う。
■材料と道具
リンシードオイル(その他の乾性油)、鉛白顔料
加熱器具(カセットコンロ等)、耐熱ビーカー、石綿金網(またはセラミック金網)、空瓶、温度計
鉛白顔料(シルバーホワイト顔料)は画材店で購入できる。チューブ絵具のシルバーホワイトでも代用できるが、海外メーカーの製品はジンクホワイトなど他の顔料が混ざっていることがあるので、そのようなものは避ける。リサージ(一酸化鉛)が使われることもある(試薬として薬局などで購入可)。いずれも、毒性があるので取り扱いには注意すること。油を加熱する為の器は、理科実験用の耐熱ビーカーが中の状態を確認しやすくて便利だが、磁器やホウロウの鍋など熱に強いものなら何でもよい。作業中にオイルを加熱し過ぎて吹きこぼれると危ないので、大きめのものがいい。消火器は必ず用意すること。ビーカーの油に火がついた場合は、なんでもよいからフタをすれば消える。なお、高温の油に水をかけるのは非常に危険な行為である。温度計は理科実験用の水銀温度計(300℃まで計れる)があればそれに越したことはないが、スーパーでも購入できる天ぷら料理用温度計でも十分である。特にデジタル式のものが便利である。
耐熱ビーカー等の器にリンシード油と鉛白顔料を入れる。鉛白顔料は重量比にしてオイルの5%程度が目安(100gのオイルの場合、5gの鉛白)。チューブ絵具のシルバーホワイトを使用する場合は、油や体質顔料が含まれているので、若干多めにする。写真の例では、300mlビーカーに乾性油180g、鉛白顔料9gを入れている。木のヘラか割り箸などで、それをよくかき混ぜておく。下に鉛白顔料がたまっている場合は、それが満遍なく広がるまでかき混ぜる。しっかりかき混ぜると、牛乳かヨーグルトのような感じになる(市販のサンシックンド油など、濃い色の油を使用した場合はミルクティー色)。
以降の作業は、作業中の臭いがキツイので、建物の陰や、ガレージなどに移動して行なうことをお勧めする。コンロに金網、石綿を載せ、その上でビーカーを加熱する。ビーカーが倒れたり、中身があふれたりしないように、くれぐれも注意。底が焦げないようにかき混ぜながら、徐々に火を強めてゆく。180℃前後に熱していると、徐々に褐色の色が付き、15分ぐらいで、カフェオレのような色になる。そのままの温度を維持させていると、やがてオイルはブラックコーヒーのような漆黒になる。J・シェパードは、コーヒー色になった後もさらに1時間火にかけておくように指示している。火にかけたまま放置しておくと、温度が上がり過ぎて発火する危険もあるので、そばを離れてはいけない。温度が上がったら火を止め、下がってきたらまた火を点けるということを繰り返し、温度を維持する。
加熱の工程を終えたら、ある程度冷めるのを待ち、生ぬるぐらいのときに、保存用の容器に移し替える(熱い状態の油を突然注ぐと、ガラス容器の場合、割れる危険があるので注意)。その際、容器の口に輪ゴムでガーゼなどをつけて漉しながら注ぐと、ゴミや、焦げた欠片などを排除することができる(屋外でやるとたまにゴミが入ったりする)。容器には、使用したオイルと、日付などのデータをラベルにして貼っておく。棚に保管してしばらく経つと、瓶底に溶けきらなかった鉛白が沈殿することがあるが、それはそのままにして上のオイルの部分だけを使う。ただし、べつに混ぜ合わせて使ってもかまわない。多少、白っぽくなるが、絵具と混ぜれば、その程度の鉛白顔料が色調に影響を与えることはない。
使用する乾性油は、リンシードオイルでなくてもかまわない。私はサンシックド・リンシード等の重合油と、生のリンシードオイルを5:5にしたものを使うことが多い。スタンドオイルをブラックオイル化して、乾燥の遅さを改善するというのも面白いかもしれない。ルフラン&ブルジョワ社のブラックオイルはウォルナットである。ウォルナットまたはポピーオイル、それらとリンシードオイルの混合など、組み合わせはいろいろ考えられる。
乾性油によっていは、カフェオレ色からブラックコーヒー色に変化するまで、けっこう時間がかかることがあるが、そのようなとき、ダンマル樹脂をひとかけら入れていると、なぜか短時間で済むことがある。何故なのかは全くわからないが、今のところ使用上の問題は起っていないので、長時間加熱してもブラックオイルにならないというときは試してみるとよい。
ブラックオイルは、短時間で上塗りの絵具を弾くほど速く乾燥する。もし上塗りの絵具が弾かれてしまうという場合は、ルツーセ(加筆用ワニス)を塗布するとよい。ルツーセを何度も使用しなければならない場合は、ブラックオイルの特性が強過ぎるのかもしれないので、生の乾性油で割って使用する。あるいはブラックオイルに適量のダンマルワニスまたはマスチックワニスを加えた画用液を作成して使えば、全般的に絵具をのりがよくなる。というよりも、樹脂を含む画用液を作成して使うのがむしろ正しいと言える。
乾性油に対する鉛白の量は、重量比にして5〜10%ぐらいの間で調整されうる。画用液としてそのまま絵具に加えて使用するだけなら5%に留めないと使いづらいが、メディウムの材料のごく一部として使用する場合はもっと多くてもいい。
最終更新日 2008年04月15日
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