描画手順:静物画1

油彩画は多様な手法で描かれるジャンルなので、決まった描き方というものはないが、静物画を題材に、下地作りから、完成までのプロセスを一例として提示する。作例はシャルダンの作品の模写であるが、シャルダンの手法を忠実に再現しようとしたものではなく、あくまで私個人の制作方法で進めている。

シャルダン模写

白い地塗りの上に、テレピンと乾性油で溶いたイエローオーカーを画面全体に塗布した。これは、全体の色調を整えつつ、地塗りの吸収性を調節する役割も果たす。吸収性の高い水性や半油性地塗りの場合に特に重要であり、地の吸収性に合わせて油の濃さを変える。作例ではオーカーを使用しているが、自己の作風、または制作する主題に合わせて、後の作業に適切な色を選ぶ。グレーを使用すれば画面に清涼感を与え、赤を使用すればバロック風の暗闇から浮かび上がるような効果が期待できる。作例は意図的に、筆跡が残るように塗っている。綺麗にヘタ塗りするよりも、多少ムラのある下地の方が作業を進めやすいからである。

シャルダン模写

やや濃いめの褐色で素描を行なう。べつに褐色でなくてもよいが、あとから目立ってくる色は避けた方がいい。鉛筆を使うと、年月を経るに従って、絵画層から透けてくるようである。素描は予め下絵を制作したものから転写する場合と、直接キャンバス上で試行錯誤しながら描写する場合がある。素描は、先ほど薄い下地塗りの前に行なってもいい。入念な下絵を作成している場合は、下絵から何らかの方法で転写する。

シャルダン模写

褐色の粗描きで、全体の構図や陰影、形態を描き出し、固有色で描画を行なう。使用する絵具は、バーントシエナを中心にアンバーとオーカーで明暗を調整した。マルスレッド、マルスイエロー、一部のライトレッドなど、合成の酸化鉄顔料は下地にするには突飛な色調なので避けた。この段階では、丈夫な皮膜を形成するリンシードオイルを主たる画用液として使用した。まだ下層の段階なので、あまり濃すぎるものではなく、適度にテレピン等で薄めている。あまり細部に拘らずに、全体の動きを描き出すような筆運びで、下絵の境界線を跨ぐように筆を動かしている。アンバーを下地に使った場合、下地の色が上描きの層に染み出してくる、いわゆるブリードと呼ばれる現象が起こることが、過去のいくつかの技法書で言及されている(例:デルナー)。しかしこの件を画材メーカーに質問したところ、実験ではアンバーのブリードは全く再現されなかったということである。ジンクホワイトなどの透明化しやすい上塗りにおいては、濃い下地が透ける可能性があるので、その点は注意されたし。

シャルダン模写

菓子パン、食器、果物など、量感を出したい部分には、シルバーホワイトを厚く塗って盛り上げた。この盛り上げは、下地でもあるので、リンシードオイルで練られたシルバーホワイト、または、ファンデーションホワイトを使っている。黄変する可能性はあるが、乾燥が速く、丈夫な皮膜を形成する。基本的に、ホワイトは黄変の少ないポピーオイルまたはサフラワーオイルで練られているが、最近はリンシードで練ったシルバーホワイトも登場している。

背景は固有色のべた塗りでもよいが、より深みを出すためにシルバーホワイトをたっぷりと混ぜた黒褐色を厚く塗っている。鉛白はもともと透明度が高いが、時間が経つにつれてさらに目立たなくなってくる。色調を和らげるし、丈夫な皮膜を作るので、グレース等も含めて全般的に混入している。

シャルダン模写

鉛白の盛り上げが乾燥した後、描画を再開する。この段階で使用する画用液には、サンシックンドリンシードオイルを中心に、ダンマル、バルサム等を適量加えたメディウムを調合して使った。最後に染料系や合成顔料などの鮮やかな色をグレースしている。


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最終更新日 2011年9月14日

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