油彩制作例 − 肖像画

静物画の作例に続き、肖像画についても制作手順の一例を紹介する。

制作工程

厚めのパネル上に膠で麻布を貼り、鉛白とチタン白による半油性地を行なった。白い地塗りの上には、豚毛ラウンド筆にて、画面全体にイエローオーカーの薄い地色を付けたが、筆跡は意図して残すようにした。

アンバーで素描を行なった。このときの素描は、木炭や鉛筆で行なうことがあるが、鉛筆の線は、絵が完成してから何年も経つと目立ってくることがある。木炭の場合は、素描したのちに線を油絵具でなぞって、木炭の粉は払ってしまうとよい。直接、キャンバス上で素描するのではなく、下絵を描いて転写することもある。

デッサンから転写する場合、いくつかの方法があるが、最近気に入っているのは、自作の転写用紙を使ったもので、これはJ.G.ヴィベールが紹介した方法らしいが、トレーシングペーパーの裏側にシッカチーフとリンシードオイルで溶いた絵具を塗り、布で余分な絵具を軽く拭き取る。絵具が付いた面を、キャンバスに貼り付け、その上にデッサンをのせて、ボールペンの先等で線をなぞる。市販のカーボン用紙を使うと画面を汚すことがあるが、先の方法で転写した場合は、油絵具の線なので上にグレースしても汚れることがなく、後に線が目立ってくるということも起こらない。かなり細かい部分まで転写できる

シャルダン模写

素描が乾いたのちに、バーントシエナなど、赤褐色で色をつけてゆく。物体の境界線の移行を自然にするため、線を跨ぐように塗るのが良い。過去、いくつかの技法書にて、アンバーはブリードを起こすと書かれてきたが、その信憑性は怪しい。ただし上塗りの絵具が透明化する可能性もあるので、最初の段階では暗い褐色は控えめにしている。

シャルダン模写

シルバーホワイトを混ぜた絵具を使って、画肌を作ってゆく。

シャルダン模写

単に被覆の絵具で描写するのではなく、まず影となる部分に、暗い色を薄く塗り、その上に透明感のある白を重ねることがある。暗い絵具の部分は影の色となり、暗い絵具のない部分は明るい白となる。単純にこれが一回行なわれるのではなく、交互に塗り重ねられることもある。今回は、リンシードオイルに鉛白を入れて煮たブラックオイルという油を中心的に使うことにした。かつてコーパルワニスや、色の濃いサンシックンドオイル、ボイルドオイル等を利用していたこともあったが、どうも画面を暗くする傾向があるようで、現在はオイルと軟質樹脂、バルサムで画用液を作っている。

シャルダン模写

油絵具の場合、混色によって、人間の肌の色を表現するのは難しい。色が濁ってしまうだけだ。まず、ベースとなる明るい肌色をぬり、バーミリオンやオーカーのグレースで、肌色に近づけていく。

シャルダン模写

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