朱、Vermilion、辰砂、チャイニーズバーミリオン
組成:硫化水銀
太古より使用されてきた顔料で、特に古代世界では最も重要な色のひとつでした。ローマ時代に書かれた『プリニウスの博物誌』では、辰砂にかなりの紙数が割かれています。既にこの時代には、水銀と硫黄を合わせて人工的に辰砂を作ったり、辰砂から水銀を取り出す方法が知られていたようです。チェンニーニは辰砂について、錬金術師がるつぼの中で作る赤色と書いているので、その時代には人工辰砂が中心的に使われていたのでしょう。
暖かみのある色で、白と混色して肌の色を表現したりします。耐久性の良い顔料ですが、日光を当てていると黒変することがあります。保護ワニスやグレースを引いて防ぐ方法を読んだことがあります。昔の作り方は「乾式法」と言われるものでしたが、17〜18世紀頃のヨーロッパでは「湿式法」に移行してゆきます。乾式法の辰砂は粒子が粗く青みがかっているが、よく練って細かくしていくと湿式法の色に近づいてゆく。
水銀が含まれるため毒性がありますが、硫化水銀の状態ではそれほど危険なものではありません。加熱すると有毒なガスが発生します。古代では辰砂を身体に塗ったりしていたこともあったようですが、念のため取り扱いには注意しましょう。顔料を扱う際は、マスクを着用してください。
英名:Madder
茜(あかね)は根に赤の色素アリザリンを含み、それが染料として古くから使用されてきた。油絵具等で使用する場合は無色の顔料に着色・不溶化し、レーキ顔料として使う。染料系の色材は一般に耐光性が悪く、常に光にあたっていると退色する傾向がある。しかしマダーレーキは無機顔料のような耐久性はないが、天然の赤い染料としてはかなり耐光性の良い部類に入り、使用法や条件が良ければ数百年経った絵画でも色が状態良く残っている。アリザリンは19世紀に合成方法が発見されて、それ以降、色材として天然のあかねが絵具に使われることはほとんどなくなった。チューブ絵具ではウィザー・アンド・ニュートンが真性ローズマダー(Rose Madder Genuine)を作っており、国内でも大きな画材店で買えることがある。
レーキ顔料全般に言えるが、マダーレーキを塗った上に白などの絵具を塗ると、ブリード現象が起こって、上の色が赤く染まってしまう。白と混ぜて混色した場合、マダーレーキの量が少ない薄いピンク色などは退色しやすい。特に薄い色は真っ白になっている例がある。ある程度濃い色は比較的褪せずによく残っている。例えば、人物の肌の色が異様に白かったり、土気色の場合は、赤のレーキが退色した可能性が高い。同じように、真っ白いローブもかつてピンクだったかもしれない。これらは影やアウトラインの部分の色を見れば、かつての色の予想ができる。単体でかなり濃く塗った場合も色の保存状態は良いが、薄いグレースなどの微妙な表現は褪せやすい。しかし、先にも言ったとおり、現在の絵具は昔のマダーレーキより耐光性が良い。
西洋では中世の頃に十字軍が持ち帰り、栽培が始まったと言われている。西洋茜の色素はアリザリンが主体だが、パープリン(プルプリン)という黄色に近い赤も含まれており、人工のアリザリンに比べると若干暖かみがあるという。その為に天然のアリザリンレーキを人肌に使うと良いらしい。ちなみに日本の茜にはアリザリンはあまり含まれておらず、パープリンが中心なので橙色になる。
天然の茜は乾燥させたものが専門画材店や染料の店で購入できる。絵具として使うには、アルミナホワイトや硫酸カルシウム等の体質顔料に染色してレーキ顔料化する。マダーレーキに限らず、レーキ顔料を作る方法は、抽出した染料に明礬や灰汁を加えて体質に沈殿させる。体質顔料の種類は透明性や不透明性に影響し、明礬や灰汁の加え加減は色味に影響するようだが、自分では試したことがないので、これ以上のことはわからない。昔の画家や工房は、素材から染料を抽出していたわけではないようだ。プリニウスの『博物誌』は、すでに染色されていた布と、色を吸着しやすい体質顔料を一緒に煮て、染め物の色を顔料に着ける方法を紹介している。ローリーの本では、中世のヨーロッパでは茜で染色したウールがマルセーユ等で産業として成り立っており、それを利用してレーキ顔料を作ったかもしれないとある。D.V.ThompsonのThe Materials and Techniques of Mediaval Paintingでは、その方法がさらに詳しく説明されている。
コチニールは、中南米のサボテンに寄生するカイガラムシで、この虫から赤い染料が採れる。コチニールは南米の発見によってメキシコよりもたらされたが、最も古くから西洋で使われていた「虫の赤い染料」は、地中海沿岸に生息するケルメスという虫から採れるもので、英語のクリムソンの由来となったと思われる。次にインドからラックレーキがもたらされ、さらに南米からコチニールがやってきた。
コチニールの色素はカルミン酸(カーマイン、carmine)で、これを体質顔料に染めつけることでカーマインレーキとクリムソンレーキが作られる。コチニールは織物の染色や食品の添加物として現在でも利用されているが、現代のカーマイン絵具やクリムソン絵具は人工顔料やその他の色を組み合わせで作られている。
絵画材料ハンドブックによると、「カイガラ虫を木製の漏斗で補修、乾燥し、薄い炭酸ソーダ溶液で煮沸抽出してレーキ化する。ミョウバンと酒石英(ブドウ酒を作るときに生成する澱)からクリムソンレーキが、ミョウバンと塩化鉛からカーマインレーキが得られる。
」とあります。これと似たようなことが絵画材料事典にも書いてあり、色を定着させるときの材料によって色味がかわるため、区別されたのだと思いますが、私には正確なところはわかりません。現在の絵具では慣例名としての意味しかないようで、一般に、やや紫がかった濃い赤を指す言葉として使われている。カーマイン、クリムソンレーキ等の絵具は人工の顔料等を組み合わせて造られている。何が使われているかはメーカーによって異なる。真性カーマイン(Carmine Genuine)という商品もあるらしい。カイガラムシ自体は染料のお店で手に入る(写真)。メスには脚がなく、ひたすら食べているだけなのだそうだ。顔料の状態で入手するには、日本画材料の中にコチニールレーキ顔料があるらしい。これもまだ買ってみたことがない。
英名:Brazil wood
マメ科の木から採れる赤い染料が「ブラジル」と呼ばれていた。その名はポルトガル語で「燃える炭火」意味する「ブラザ」に由来し、南米ブラジルを発見するずっと前から西洋で使用されていた。セイロンが大きな産地で、そこからアレキサンドリアに運ばれ、アレキサンドリアからヨーロッパに輸入されたという。後にポルトガル人が南米ブラジルに上陸した際、同様の赤い染料の原料になる木がたくさんあったため、貿易にために大量に伐採して輸出した。やがてその土地も「ブラジル」と呼ばれるようになり、国名になった。南米ブラジルにあったそれらの木々は染料の原料として徹底的に伐採され、今はほとんど残っていない。ものすごい勢いで伐っていったというから、西洋での使用量はかなりのものだったのだろう。東南アジアにも蘇枋の木はたくさんあり、日本でも古くから輸入されて衣類の染料に使われた。
以上の歴史、染料の抽出方法、レーキ顔料化、用途などについては、D.V.Thompson(著)The Materials and Techniques of Mediaval Paintingが詳しく、その解説によると「ブラジル」は木の粉を水に浸けて染料を抽出するが、灰汁の溶液に浸けて抽出すると紫がかった冷たい色調の赤が採れ、明礬の溶液で抽出すると暖かい赤が採れる。その他にも様々な材料と組み合わせることによって異なる色が出る。中性の時代は卵白に混ぜてインクにしたが、後の時代はアラビアガムを使い、つい百年くらい前までヨーロッパで使用されていたという。炭酸カルシウムやアルミナホワイトに定着させてレーキ顔料にし、絵画にも使用できる。中世では絵画用途でも、衣装の染料の為としても、莫大な量が使用されたが、特に耐久性に優れるわけでも、見た目が鮮明というわけではなく、中世の終わりには、より鮮明なコチニールレーキや耐久性のあるマダーレーキに役割を譲るようなった。
私はこの色を使ったことがない。ブラジルすおうは、赤の染料の中でも著しく耐光性が良くない。
Cadmium Red
組成 :セレン化、硫化カドミウム
カドミウムレッドは20世紀の初頭に絵具として商品化されたものが登場し、バーミリオン(硫化水銀)に替わる絵具として普及しました。バーミリオンは強い光の元で黒変することがあり、それを嫌ってカドミウムレッドに移行していったようですが、個人的にはやはりバーミリオンとは別の色だと思って使っています。
「セレン化カドミウム」は、硫化カドミウムをセレン化したもので、セレン化の度合いによって赤みが増していきます。市販の絵具には「カドミウムレッド・ライト」「ミドル」「ディープ」「パープル」など、幅広い赤味の製品があります。
セレン化合物もカドミウムも共に毒性が強いので、取り扱いには注意しなければなりません。特に顔料を扱うときは、吸い込まないように気を付けましょう。環境にも留意し、むやみに下水に流したりしてはならなりません。
なお、当サイトのドメイン(cad-red.com)はカドミウムレッドを縮めたものです。やっぱりなんでもきれい事ばかりではなくて、多少は毒が混ざっていなければならないな、と思ったわけです。
英名:alizarin
前出の西洋茜に含まれる染料で、19世紀に人工合成方法が発明され、それ以後は、工業的には人工のアリザリンが主役になりました。化学のことはよくわからないので、以下に参考文献とリンクを挙げておきます。
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