バロック歌劇について語る:モンテヴェルディ『オルフェオ』
音楽に限らず諸芸術のバロック期の始まりはだいたい1600年前後、厳密な年代からどこから始まったかといえば、ジャンルによって見解が異なるかと思いますが、例えば建築なら1580年代くらいとか、何かしら記念碑的な作品が完成した年を当てはめるという手があるかと思います。音楽の場合はオペラといういかにもバロック的なジャンルの始まりをバロックの始まりということに設定すれば、けっこうはっきり年代設定でるかと思います。音楽のジャンルは、徐々に形成されてくることが多く、正確な形成過程自体わからないことが多いのですが、オペラはかなりはっきりしており、ある集団が古代の劇を再現しようと試み、歌いようにセリフを言っていたという想定で、再現してみたのがオペラの発生と言われており、その年代もわかっているので、それをバロック音楽の発生としてもよいかと思います。歴史上最初の歌劇は現存しておらず、現存するものとして最古のオペラはヤコポ・ペーリの「エウリディーチェ」で、1600年にフランス王とマリー・ド・メディシスの結婚の際に、フィレンツェのピッティ宮殿で初演されたということなので、そこをバロック音楽のはじまりとするときっかり1600年です。異論はいっぱいあるかもしれませんが、クラシック音楽に果たしたオペラの役割を考えると捨てがたいところです。

ちょっと話が外れますが、古代劇の再生という意図があるなら、バロックよりも「ルネッサンス」の方が言葉の意味的には合っていないでもないですね。絵画の方も、ポンペイの遺跡が発掘されるまでは、古代の絵画というものがあまり伝わってなかったので、ルネサンスの頃の人が、実際の古代の絵画について触れる機会は相当少なかったと思われます。ですから、実際に影響を与えたのは、建築様式、そして彫刻作品、文芸作品などに依るのでしょう。ましてや音楽となると、古代の音楽は、ピタゴラスやプラトンのような音楽理論だけですから、ルネッサンス音楽といえど、古代の再生とは言い難いものがあったわけですが、これは、先に読んだ中島智章(著)『図説 バロック』(ふくろうの本/世界の文化)に書いてあった話なのですが、言われてみればなるほどと感心しました。

ヤコポ・ペーリの「エウリディーチェ」はマリー・ド・メディシスの結婚の際に上演されたそうなのですが、マリー・ド・メディシスは後にルーベンスに自分の生涯を描かせ、『マリー・ド・メディシスの生涯』という連作が現在ルーブル美術館にありますが、これはまさにバロック絵画の代表ともいえる作品なので、マリー・ド・メディシスはまったく持ってバロック的な生涯であったのでしょう。ヤコポ・ペーリの「エウリディーチェ」は私はまだ聴いたことがありません。きっと探せば売ってると思うので、そのうち聴いてみたいと思います。注目すべきは、歴史上3作目、現存するものとしては、2作目の歌劇作品である、モンテヴェルディの『オルフェオ』です。

再びちょっと脇道にそれますが、まずオペラというものについて言えば、オペラというのは歴史上これまでに数多作曲されていますが、オペラハウスの定番レパートリーになっている曲は、その歴史の割にはあまり多くありません。ドイツならモーツァルトから始まって、魔弾の射手とか、ワーグナーの作品とか、イタリアなら、ロッシーニ、ヴェルディ、プッチーニとか、っていうふうに挙げていくとそれなりの数にはなりますが、17世紀からの歴史と考えてみると、それほどでもない数の作品を延々くり返して上演しているわけで、それもだいたい古典派以降の作品で締められています。いや、実際は、ヴェルディとかプッチーニだらけだったりするものですが。モーツァルトなど古い方だと言っていいかと思うのですが、いずれにしても古典派以降の作品であり、バロックオペラというのは滅多なことで聴けるものではありませんでした。オペラというジャンルほど、バロックを体現したものはないと言えるのですが、オペラ座の定番レパートリーはそれより後の作品なのです。が、最近は状況が変わって、けっこう演奏されており、映像化されてもいるので、DVDとかで買えたりします。音楽好きの方が海外に行ってようやく観劇できた作品が、バロックオペラだとガッカリするみたいですが。確かにフィガロの結婚とか、プッチーニとかの方がいいっすよね。定番オペラですら、それなりの予備知識がないと楽しめないのですが、バロックオペラだとさらにハードルが高いと言えるでしょう。いずれまた語りたいと思いますが、バロックという時代であったからこそという要素が多々あって、違う時代で聴いて理解が難しいこともいろいろあるわけです。が、しかし、現存2作目オペラであるモンテヴェルディの「オルフェオ」。これは珍しく、けっこう時代を超越している完成度です。いや、もはやしょっぱなでバロック期オペラの最高傑作になってしまっているのではないか、とも思えるほどです。

『オルフェオ』はバルセロナのリセウ大劇場で上演されたもののDVDがとても良い出来映えなのでお薦めです。日本語字幕も付いてます。

題材はギリシャ神話のオルフェウスの物語。竪琴の名手オルフェオは、新婚の妻エウリディーチェがいましたが、毒蛇に噛まれて死んでしまい、連れ戻す為に黄泉の国にゆくという、誰でも知っている物語です。

youtubeにも上がっているので、それを参照しつつ、ちょっと観てみましょう。
既に立派な序曲っぽいものがありますが、とってもいいですね。

後に、モーツァルトやベートーヴェン等が活躍する頃に、交響曲という形式が台頭してきますが、その萌芽となるのがオペラの序曲であり、このオルフェオの序曲はまさにその最初の一撃といえるでしょう。あるいは交響曲に限らず器楽曲全般のスタートラインかもしれません。

音楽の女神的なものが前振り歌を歌ってくれますが、この時点でもう素晴らしいという他ありません。私などはこの歌だけでワイン一本空けられます。

当時の民衆の音楽がどんなだっかはともかく、現在クラシック音楽と言われるものの流れでは、ルネサンス期までは、対等のパートが織りなすポリフォニーが主流であり、何を言っているのは聞き取りづらい音楽だったのが、セリフを歌うという行為により、しっかりと聞き取り安いホモフォニーになっています。バックバンドやオーケストラを背景にした歌謡曲のようでもあり、これが歌劇のはじまりでありつつ、現代に続く音楽の始まりなのでもあるのでしょう。例えば、日本のテレビで演歌歌手が歌っているのを見て、それが昔からの日本のものだとうっかり思ってしまうかも知れませんが、記譜方法だって西洋の記譜方法だし、単に日本っぽい音階に限っているだけで、スタートはここなのではないか、と。

幸せいっぱいの場面とか、さらに合唱も交えてみたり、娯楽作品としても完成度が高く、とくに合唱はルネサンス期のポリフォニー的要素も残っていて、いろいろ楽しめると言える、バランス良く練られた作品なのですが、それは各自観てもらうとして、とりあえず合唱と主人公オルフェオの歌を聴いてみましょう。


その後、いろいろあって、三途の川の場面です。

三途の川の船頭を歌で眠らせ通過します。

それから、冥界の王ハデスの夫婦も歌で説得するなどして、無事エウリディーチェを連れ帰れそうになるのですが、道中決して振り返ってはならないという約束を破って妻は去ってしまいます。

悲嘆にくれるオルフェオを哀れに思った父であり太陽神であるアポロが雲に乗って登場します。

バロックオペラには、最後に雲に乗った神が降りてきて救いの手を差し伸べるというパターンがけっこうありますが、当時、王侯貴族が舞台に立つことが多く、この場面で、登場して慈悲深いところを見せるという演出もあったようです。このオルフェオがどうだったかはわかりませんが。しかし、これはバロック期にオペラがどのような役割を果したかを語るには重要な要素です。

ちなみに、なんでこんなことを書いたかというと、この曲のガーディナーのCDを買ったわけです。
モンテヴェルディ『オルフェオ』(ガーディナー指揮/イングリッシュ・バロック・ソロイスツ)
素晴らしい。清明な演奏です。CDで買うならダントツでこれがよいでしょう。

しかし、映像と字幕もあった方がいいので、まず手初めにという感じでしたら、下記DVDがお薦めといえるでしょう。
モンテヴェルディ:歌劇《オルフェオ》リセウ大歌劇場2002
めっちゃプレミアついてますけれども。

| 音楽 | 03:17 AM | comments (0) | trackback (0) |










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