『西洋絵画の画材と技法』 - [リンク集&参考文献]

絵画技法に関する往時の著作物

昔の人が書いた技法書等の文献のうち、現在、単行本等で入手可能なものを紹介。時代は古代、中世、ルネサンス、バロックぐらいまで。本項で紹介する書は、現役の画家の実技に直接役するものとは言いかねるので、ご利用は各自の判断でお願いします。「昔の画家の技法」、「美術史の文献」、「保存修復、美術館の刊行物、図録等」にも関連文献あり。

古代

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『プリニウスの博物誌』全3巻,雄山閣出版

プリニウス(紀元23年〜79年)が著した大百科事典。宇宙、気象、地理、植物、宝石など科学・技術全般を扱っており、全37巻から成る。古代という時代を考慮してもかなりいい加減な記述が多いが、ジャンルによっては非常に具体的なことが書かれている。第33〜34巻に顔料が登場。辰砂、鉛白、雄黄など。第35巻「顔料及び絵画・画家」が、古代絵画と画家を現代に伝えている。第37巻「宝石」に琥珀が登場。その他の巻にも、麻や樹木、樹脂、貴石など材料に関するものが多い。日本語訳(全3冊)は47,000円と高額。ソフトカバー廉価版の登場希望。英語またはラテン語原文でよければ、ギリシア・ローマの古典を、原文・英訳対照で刊行するLOEB CLASSICAL LIBRARYシリーズでも、プリニウスの博物誌がある。大著なので数冊に渡っているが、絵画に関する主な章はPLINY,NATURAL HISTORY BOOKS 33-35,LOEB CLASSICAL LIBRARY,1952,1999に収まっている。

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ウィトルーウィウス(著)/森田慶一(訳注)『ウィトルーウィウス建築書』普及版,東海大学出版会

古代ローマ、カエサルからアウグストスの時代に活動していたと思われる建築家?Vitruvius(ウィトルウィウスまはたヴィトルヴィウス)が著した建築理論書。十書から成り『建築十書』とも呼ばれる。現存している最古の建築理論書。建築以外にも土木や機械技術、天文学、さらには歴史や哲学、数学についての記述も多い。ルネサンス時代にアルベルティ、ラファエロ等の建築家によって熱心に研究された。第7書には辰砂、鉛白、緑青等の顔料の製造法が書かれている。プリニウスに比べるとかなり真面目な本。全体的にルネサンス精神に通じるような文章があちこちに散見する。さらに詳しい解説とラテン語原文の載ったものが図書館にある。英訳はVitruvius Pollio , Morris H. Morgan Ten Books on Architecture

中世

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テオフィルス(著)/森洋(編・訳)『さまざまの技能について』中央公論美術,1996

12世紀(成立年代は諸説あり)ドイツの修道士テオフィルスが書き残した技法書。絵画以外にも、金細工や工芸品、オルガン製作などについて述べられている。中世のイメージを一変させるぐらいに合理的で科学的な内容。邦訳はまるで翻訳機にかけたような文体だが、学問的で解説が豊富。

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チェンニーノ・チェンニーニ(著)/中村彝(訳) 『芸術の書』中央公論社

有名なIl Libro dell'Arteの日本語訳。ジオットの弟子のさらに弟子にあたるチェンニニ(Cennino d'Andrea Cennini)が記した技法書。西洋絵画史上、最も重要な文献のひとつ。テンペラ、フレスコ等、油彩登場前夜の技法について。油彩に関しても若干触れられている。この技法書が発見され、仏語に翻訳されたことが、ほぼ完全に忘れ去られていたテンペラ技法復活のきっかけになった。翻訳は画家の中村彝(1887-1924)が試みたが部分的に翻訳したのみで夭折、残りの部分は他の翻訳者が補っている。中村訳の部分は言葉が古いので読みにくいが、他の大部分は現代の文体で読むことできる。中村が仏語訳から日本語への翻訳を始めたこともあり、色名等がフランス語で統一されている。中村訳と補筆をわかるように文字の大きさを変えているなど、純粋にチェンニーニを読むには邪魔な点も多いが、部分的にはわかりやすい訳になっている箇所もあり、岩波版と共にこちらも参考にしたい。

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チェンニーノ・チェンニーニ(著)/辻茂(編訳)『絵画術の書』岩波書店,1992

こちらは比較的新しい翻訳。本文は読みやすく、註、解説も多い。長い間、生産中止の状態だったが、最近再版された。どちらか1冊買うなら、中村訳よりはこちらの方がよいかと思う。

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C. D. Cennini , Craftsman's Handbook

D.V.Thompsonによる、チェンニーニの英訳。最も代表的な現代語訳で引用される頻度も高い。ペーパーバックで安価に入手可。テキストのみなら、下記URLでもThompson訳が閲覧できる。
http://www.noteaccess.com/Texts/Cennini/index.htm

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Borradaile, V. and R. The Strasburg Manuscript: A Medieval Painters Handbook. Tiranti, London: 1966

中世北方絵画の技法について書かれた写本「シュトラスブルグ手稿」の英訳。ドイツ語で書かれた現存する最古の技法書(テオフィルスはラテン語?)。著者不明? 絶版だが、私の場合はabebooks.comで見つけて購入。左記画像のリンクはAmazon.co.jpへのものだが、同一品かどうかは不明ながらも、おそらくは同等品。abebooks又は、US、UKのAmazonでUSEDを探すのが入手への近道。

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Anonymous,Trans by D.V.Thompson,De Arte Illuminandi,Yale UP,1933

写本装飾に関する技術の重要な情報源。おそらく14世紀の終わりに南イタリアで書かれたもので、タイトルや署名がなく、De Arte Illuminandiと呼ばれている。D.V.Thompsonが英訳。しかし絶版。

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Dionysios , The Painters Manual of Dionysius of Fourna

イコン画の技法書。ディオニシオス著「ヘルメネイア」または「エルミニア」として知られる。編纂されたのは18世紀だが、中世ヴィザンチン以来の伝統を集大成している。本書は、Paul Hetheringtonによる英訳。金沢美術工芸大学による邦訳『東方正教会の絵画指南書』もあるが、入手は少々難しい(大学の図書館等で閲覧可)。技法部分のみでよければ、金沢美術工芸大学紀要Vol.39内の「ディオニシオスの「エルミニア」 : 技法編の翻訳」が、http://ci.nii.ac.jp/naid/110004684497/にて無料公開されている。平易な文章で書かれており、現代のテンペラ制作者にとっても参考になり得る箇所は多く、一読して損無し。

ルネッサンス

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ヴァザーリ研究会編『ヴァザーリの芸術論-芸術家列伝における技法論と美学』平凡社,1980

ヴァザーリ『列伝』冒頭におかれた「技法論」の邦訳。原書の『列伝』は本編である伝記の前に「建築」「彫刻」「絵画」に関する技術書のようなものがあり、当時、実際に行なわれた技術の情報が豊富。「絵画」の章にはテンペラ、フレスコ、油絵、モザイコ、グロテスク模様、銅版画など様々な技法を紹介している。油絵やテンペラに関するページ数は決して多くないが、インプリマトーラのやり方など見逃せない。それと『列伝』の伝記部分はヴァザーリの意図で3部に分かれているが、それぞれの序論も収録されている。絶版で古書店での入手も難しい。下記の英訳が入手可能。

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Giorgio Vasari,Vasari on Technique,Dover Pubns

ヴァザーリ『列伝』中の「技術論」を英訳したもの。ただし、上記の邦訳のように、伝記各部の序論までは含まれていない。「技術論」の邦訳を読んでも意味不明な部分が多いと思うので、こちらも参考するとよいかも。

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Giovanni Battista Armenini,On the True Precepts of the Art of Painting,Burt Franklin,1977

Giovanni Battista Armeniniはイタリアのファエンツァで生まれ、画家になるための教育を受けるが、結局は修道士になった。1587年にDe Veri Precetti della Pitturaを出版。ルネサンス時代の絵画技術について書かれているらしい。伊語版は比較的入手しやすいようだが、英訳は絶版につき中古価格激騰。未入手。

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Mary P. Merrifield,Medieval and Renaissance Treatises on the Arts of Painting : Original Texts With English Translations,Dover Pubns

ボローニャ手稿等の古写本に関する論文と、その古写本の原文と英訳が対になったものが付いている。MANUSCRIPT OF JEHAN LE BEGUE、BOLOGNESE MANUSCRIPT、PADUAN MANUSCRIPT、BRUSSELS MNUSCRIPT、その他。つい最近まで安価に入手できたのに、品切れになった途端に凄まじいプレミア価格に。

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Nicholas Hilliard , The Arte of Limning,Harry Ransom Humanities Research Center

R.K.Thornton,T.G.Cain(編集)。英国人最初の巨匠といわれる細密肖像画家ニコラス・ヒリアード(1546/7-1618)の著した『細密画技術論』。技術論成立の経緯や、ヒリアードの生涯、技法などの解説付き。技法論本文にはスペリングを現代の綴りに直すなど、読みやすくしたものが併記されている。ガッシュやテンペラ技法をやる人には、大いに参考になると思われる。

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Edward Norgate,Miniatura or the Art of Limning,Yale Univ Pr

上記のヒリアードと同時期に著されてた細密肖像画及び写本装飾に関する技法書。

バロック

見本画像
Donald Fels , Lost Secrets of Flemish Painting

メディウムの話が中心だが、楽器制作者という著者の経歴からか樹脂、特に化石樹脂に力が入っている(ちなみに、本書のWebサイトでは、その系統のメディウムも販売している)。このページ主旨として、注目すべきはド・マイエルン手記の英訳を収録している点。本書は何故かAmazon.co.jpでは購入できない。版元のサイトや、米Amazon.com、クレマーピグメントのサイトで注文できる。私が専用Webサイトにメールしたときは、返事が来なかったが、今は注文フォームなども出来ている模様。本書は、どちらかというと実技家、あるいは職人的欲求に沿って編纂されているようで、学問的な目的で参照すると期待はずれになるかもしれない。ただし、絵描きにはむしろこの方がいいとも思うが。

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Rosamond D. Harley , Artists' Pigments C. 1600-1835: A Study in English Documentary Sources , Butterworth-Heinemann; 2 Sub版 (1982/09)

写本、印刷本を問わず英国の文献資料を元に、1600〜1835年にかけて絵画用途で使用された顔料の変遷について考察。本文は写本の文献番号などが多く含まれており、難書のように見えるが、文章や構成がしっかりとしていて実は読みやすい。1600〜1835年という年代の顔料の変化は実に面白い(もちろん、1835年以降も次々新しい顔料が生まれるが、工業的で今ひとつ面白味を感じない)。

日本初期洋画技法書

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モロオ・ヴォチェー(著)/大森啓助(訳)『絵画』春鳥会発行,1942

M.Vauthier,La Painture,1912の邦訳。1942年(昭和17年)初版。内容は、先史時代から19世紀までの技法史、油彩やテンペラからエンコスティックなどの各技法、保存・修復などまで体系的にまとまれた力作。カラーの図版なども差し込まれていて、戦前の本としては、ずいぶんしっかりしている。ラングレ以前にもこんな本が訳されていたのか。あえて今この本で勉強するというメリットは少ない。ネット上の古書店で検索するとよく出てくる。

黒田重太郎『洋画メチエー 技法全科の研究』文啓社書房

1928年(昭和3年)に出版。七百ページを超える分厚い技法書。技法・材料・用具、技法の歴史(古代〜中世〜日本洋画まで)を解説。かなりの力作。昭和初期の印刷だけあって、活字が古いのが難点だが、わかりやすい文体で書かれているため、読み難いということはない。今の時代にこれをソースにして勉強する理由は見当たらないが、手元にあるだけで何かやる気が出てくるのではないかと。国会図書館に在り。

石原雅夫(訳)『油絵具の研究』石原求龍堂

1941年(昭和16年)初版。いくつかの洋書技の抄訳で構成されている。メインは画材メーカー・ブロックスのジャック・ブロックス氏の翻訳かと思われるが、現代の訳書のような説明がないので、どこをどう訳したか不明。他には、あのJ.G.ヴィベールの著作『絵画の科学』から画用液に関する部分が訳出されている。その他、モロオ・ヴォチェー(仏)の『現代画家は如何に描くか"Comment on peint aujourd'hui"』という本から、当時の画家(セザンヌ、マチスなど)の画用液、パレット、技法などについての部分を訳出。内容は微妙に絵具屋の宣伝が混ざっているような気がする。戦前の本だけあって活字や文体が古い。ベルギーが「白耳義」とか。むろん絶版。ネットオークションで偶然入手。今、あえて入手するメリットはないが、ヴィベールやブロックスの文章を読みたい人は多いのでは?


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最終更新日 2008年01月04日

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