このページでは、板と麻布で支持体を作り、膠や白亜等の顔料を使って地塗りを行なう方法を紹介します。支持体作りに初めて挑戦する人のために、膠や顔料の使い方を効率よく理解できるよう配慮してあります。ここで紹介する方法を実践すれば、あとは様々な技法書を読みながら自分で支持体・地塗り作りに挑戦してゆくことができるでしょう。
今回は、板に麻布を貼ったものを支持体とし、その上に半油性の地塗りを行ないます。「半吸収性の地」は乾性油と膠を混ぜて作る地塗りで、「油性地塗り」と「水性(吸収性)の地塗り」の中間の性質を持っています。油性キャンバスでよく起こる黄変や焼け、ひび割れなどの欠点が比較的少なく、また、吸収性の地に比べるとメディウムを吸い込み過ぎないので、絶縁するなどの手順なしに、幅広い油彩技法に対応できます。なお、制作の前に支持体と地塗り概要を一読してください。
以下のものを用意してください。
| 用意する材料と道具 | |
|---|---|
| 材料 | 白亜顔料、チタン白顔料、兎膠、 サンシックンド・リンシード油、シナ合板、麻布 |
| 道具 | 過熱器具(ガスコンロ等)、鍋、計量器、 ボール、ぼろ布、ハンドクリーナー、刷毛、 平ゴムヘラ、料理用のゴムヘラ、温度計、ビーカー |
支持体となる合板を用意する。10号ぐらいまでなら、厚さ15mm程度のものを必要な大きさに切って使うのが簡単である。合板もさまざまな素材のものがあるが、シナ合板が表面の仕上げも丁寧で、絵画用の支持体に適している。これはホームセンターの材木コーナーで求めることができる。もっと大きいサイズの支持体を作る際は、薄い合板と角材等でパネルを組むなどの方法があるが、初めて挑戦するなら、まずは、厚さ15mmのシナ合板で、8号程度の支持体を2、3枚作るのが無難と言える。パネル作りをは、志村正治作のビデオ『基底材』が参考になります。ビデオ『基底材』は和蘭画房のWebサイトから注文できます。
麻布は天然繊維の中でも大変丈夫な素材で、絵画の支持体に適しています。板に貼る布も麻布が最適と言えます。大きな画材店にゆくと、地塗や膠引きをする前の麻布(「生キャンバス」と呼ぶ)を買うことができます。他には寒冷紗(かんれいしゃ)、綿布なども使えますが、麻布に比べて耐久性に劣り、油分の酸化にも弱いため、油性地や半油性地では、積極的にはお薦めしかねます。ただし麻布よりはずっと扱いやすいので、初めての場合は綿布で試すのも良いかもしれません。綿布は一般の生地店で購入したものを利用できます。
白亜(炭酸カルシウム)は、日本ではムードンという名称で売られており、画材店で購入できる。国内画材メーカーのものは「地塗り用」と「仕上げ用」の2種類を提供していることが多い。「地塗り用」は粒が粗く、「仕上げ用」は細かい。塗料全般の性質として、粗さの違う顔料が混在している方が、割れなどが起りにくく安定した層を形成するので、両方を混ぜて使うと良い。なお、人工的に作られた沈降性炭酸カルシウム(または軽質炭酸カルシウム)は、粒子があまりにも細かく均質なため、本項の地塗りには不適当である。
「膠引き」とは、支持体とその上に来る地塗りや絵具を絶縁する層で、地塗りや絵具の油分が板や麻布に進入するのを防ぐ役割を果たします。通常は膠を水に溶かしたものを塗ります。この作業および膠層を「前膠」、「サイズ」、「サイジング」などと呼びます。板に直接地塗りをする場合は念入りに膠を引かねばなりませんが、今回はあいだに布を貼るので、この段階では布の接着の助けになる程度に塗ってあれば良いと思います。なお、膠を使う際は、梅雨の時期は避け、冬季は部屋を充分暖めておきます。
まずは、膠(ニカワ)ページ内にある、膠の使用法を参照し、膠1に対し水10の膠水溶液を作ってください。
1回目の塗りは、膠液が板の表面によく浸透するように、水で半分に薄めて行います。表側だけでなく、裏面、側面も塗ってください。1日も置くと、完全に乾いていると思います。板の毛羽や細かいささくれが、1回目のサイジングによって固定されているので、それを削り取るように、細かいサンドペーパーで軽く磨いてください。
2層目の膠引きを、今度は薄めずに行ないます。裏側、側面もしっかりと塗る。このときの膠液は、50℃ぐらいの熱いものが流動性、浸透性があってよいかと思います。
左の写真のように、ダルマ画鋲などのピンを刺して少し浮かせると、床に付けることなく乾燥させることができます。斜めにすると膠液が垂れて波打つので、板は水平に置く。一晩乾燥させ、細かいサンドペーパー(1000番位)でかるく磨いてください。
布を貼ることにより、地塗り塗料の接着を確実にし、板の合わせ目、節などを目立たなくすることができます。昔の画家の間でも、板全体に布を貼ったり、板のつなぎ目や節の部分に貼ったりすることがありました。支持体に合板を使用する場合、全体をくるむように布を貼ると、表面の剥がれや角部分の欠けなどを防ぐ効果が期待できます。私は合板の耐久性をそれほど信じておらず、また、布の折目が持つ凹凸の効果も好んでいるので、たいていは布を貼っています。
あらかじめ、布を支持体よりも上下左右それぞれ10cmほど大きめに切っておきます。麻布を切るハサミは切れ味の良いものを使わないと、切り口がボロボロになり、ほつれた糸などが、布と支持体の間に入り込んだりします。この、ほつれた糸が板と布のあいだに入ってしまうと、非常にやっかいです。裁布用のハサミを用意したいところです。
板に膠液をたっぷり塗ってから、慎重に麻布を被せます。布の糸の方向と板が平行になるように置きます。普通は縦糸の方向を、長い面に合わせることが多いかと思います。縦糸と横糸はちょっと見ただけでは区別がつきませんが、伸び縮みする方向が縦糸の方向です。被せた布を、手のひらや刷毛を使って、空気を押し出すように押し広げます。このとき、板と布の間に、糸くずやゴミなど入り込んでいないか、よく確かめてください。
布が板にしっかり密着するようにゴムヘラを使って押し広げます。折り方にもよりますが、布は縦糸の方向に伸びる性質があるので、縦糸方向に圧力をかけながら伸ばしてゆくと良いでしょう。そして、布の上からも膠液を塗ってください。少し薄めた熱い膠液を塗ると、よく染み込んでゆきます。そして、まんべんなく膠液が行き渡り、板と布が接着されるようにヘラで伸ばしてください。
表面がすべて膠液で濡れた状態になったら、側面を折って貼り付けます。側面にも膠液を塗り、板の裏側に折り込んだ布も膠液を付けて、しっかりと接着します。
折り込んだ布もヘラでかきながら接着させ、左右の余った布を切り落とします。最後に余分な膠を濡れぞうきんで拭き取ります。
他の側面も折り込んでゆきます。私は裏面の体裁はほとんど気にしないのですが、折り込んだ布の長さをそろえて切り落としたり、裏面全体にも麻布を貼ったりすると、見た目も良くなります。
再び表の面を上にして、膠液を塗り、布が板にしっかりと密着するようにゴムヘラで撫でてゆきます。乾いたときに板から浮いてしまう箇所が出来たりしないように、念入りに作業してください。側面にはみ出した余分な膠を濡れぞうきん等で拭き取り、裏面にダルマ画鋲等をさして、乾燥させます。裏にも空気が通るように工夫すると良いかと思います。
チェンニーニは布を膠液の中に浸し、それを板に貼るように指示しています。膠液に扱いに慣れてくると、こちらの方が手間が少ないかと思います。
布を貼り終え、その膠が乾燥した後に、再び膠引きを行ないます。布と地塗りとの絶縁の役割の他、布の折り目に出来る穴を埋める役割もあります。特に折目が詰まっていない布の時は、穴が開いていることが多いので、そこを埋める用に膠を引きます。膠液は室温が低いとすぐにゲル化するので、ゲル化した膠を押しつけるようにして塗ってゆくと良いでしょう。最後にはみ出した膠ゲルを濡れぞうきんで拭き取り、表面をよく観察して、塗り残しや穴ぽこ、膠の塊などがないか確認してください。
この作業のとき、膠液に白亜などの白い体質顔料を少量加えたものを使うと、布にどれぐらいしっかり膠引きされているか視覚的に確認できるようになります。強度的にも強い膠引きができるのではないかと思います。ただし白亜を混ぜ過ぎると、膠層が吸収性の性質を持ってしまうので、
では、次に地塗りのための塗料を作ります。材料の配合は下の表を参考にしてください。もちろん下は一例であって、様々な処方が考えられます。油分としては、水との親和性の良いサンシックンド・リンシードオイルを薦めします。顔料は、白色度が強く毒性のないチタン白が初心者にも扱いやすいかと思います。亜鉛華は油と混在すると後日剥離などの原因になるので、油性地、半油性地では避けておきましょう。
| 材料名 | 膠液を1としたとき | 例 |
|---|---|---|
| 膠液 | 1 | 100g |
| 天然白亜(ムードン) | 1 | 100g |
| チタン白顔料 | 1 | 100g |
| サンシックンドリンシード油 | 1/3〜1/2 | 40g |
| 水 | 1 | 100g |
エマルジョン地は、さまざまな材料・手順で作ることができますが、ここでは一番シンプルな方法を紹介します。
ステンレスボールに温かい膠液を注ぎ入れ、そこにふるいにかけながら、ゆっくりと顔料を入れます(顔料はダマになっていることが多いので、ふるいにかけないと、膠液と混ぜる作業で手間取ります)。膠液の中で、顔料の小山が築かれていくのが見えると思います。顔料を入れた後、1〜2分ほどそのまま眺め、顔料と膠液が馴染んできたところで、ゆっくりとかき混ぜます。この時点では、一所懸命かき混ぜる必要はありません。
塗料が冷めてきたところで、乾性油を糸状に垂らしながら、激しくかき混ぜます。膠液が温かいうちはうまく乳化しないので、少し冷えてから油を混ぜるようにしましょう。冬季は室温が低いので、膠液はすぐにゲル化しますが、気にせずに混ぜ合わせます。
※油を加えるときですが、容器のまま重さを量りそこから40g減るまで地塗り塗料に加えていくことで、正確に40g加えることができます。
※油を入れるときにハンドミキサーを使って撹拌すると楽です。
最後に水を加えて薄め、よくかき混ぜる。このとき、熱いお湯を加えると、油と膠液が分離してしまうので注意。室温が低く、塗料がゲル化しているときは、ステンレスボールをお湯に浸けて温め、液化させて使用する。このとき、あまり温め過ぎるとやはり油が分離してしまう。
出来たものを布貼りした板に塗ります。
最初の層が乾いたら、2層目を前回と刷毛を動かす方向を変えて塗ります。よく乾燥させながら、3〜4層程度塗ってください。エマルジョンの塗料は速乾性なので、数分あければ上に塗り重ねることができます。
側面や裏面にも地塗りを行ないます。塗料の分量が減ってくると、水分の蒸発等により、徐々に濃度が変化してきます。最後に、この余った塗料で側面や裏面を塗ると良いでしょう。
1ヶ月の乾燥期間のあと、軽くサンドペーパーをかけて完成。仮にも乾性油が含まれているので、数ヶ月置いたのちに使うのが望ましいと思われます。