支持体・地塗り作りに挑戦

本頁では、支持体作りに初めて挑戦する人のために、支持体と地塗り作りの工程を紹介する。できるだけ初心者の理解を助けるように配慮しつつ記述しているつもりである。具体的には、まず膠で板に目止めを行ない、麻布を貼り、そして膠と顔料による地塗りを施す。予め「支持体と地塗り概要」を一読のこと。本頁の地塗りは、展色材に膠と乾性油を使用する「半油性地」と呼ばれるもので、「油性地塗り」と「水性(吸収性)の地塗り」の中間の性質を持っている。膠を使用するので、梅雨や湿度の高い日は避けること。

材料と道具

道具類

■材料
白亜顔料、チタン白顔料、兎膠、サンシックンド・リンシード油、シナ合板、麻布
■道具
過熱器具(カセットコンロ等)、鍋、計量器、ボール、ぼろ布、刷毛、平ゴムヘラ、料理用のゴムヘラ、温度計、ビーカー

支持体となる合板は、10号ぐらいまでの大きさなら厚さ15mm程度のシナ合板を必要な大きさに切って使うのが簡単である。ホームセンターの材木コーナーで求めることができる。もっと大きいサイズの支持体を作る際は、薄い合板と角材等でパネルを組むなどの方法があるが、初めて挑戦するなら、まずは8〜10号ほどの支持体を2〜3枚作るのが無難であろう。合板に貼る布は、地塗や膠引きをする前の麻布、いわゆる生キャンバスというものを画材店で購入できる。その他、一般の生地屋で売っているシーチングなどの綿布でもよい。

白亜(炭酸カルシウム)は、日本ではムードンという名称で売られており、画材店で購入できる。国内画材メーカーのものは「地塗り用」と「仕上げ用」の2種類を提供していることが多い。「地塗り用」は粒が粗く、「仕上げ用」は細かい。塗料全般の性質として、粗さの違う顔料が混在している方が割れなどが起りにくく安定した層を形成するので、両方を混ぜて使うとよい。なお、人工的に作られた沈降性炭酸カルシウム(または軽質炭酸カルシウム)は、粒子があまりにも細かく均質なため、本ページの地塗り材としては不適当である。

膠引き

膠引き」とは支持体とその上に来る地塗りや絵具を絶縁する層で、地塗りや絵具の油分が板や麻布に進入するのを防ぎぐ役割を果たす。通常は膠を水に溶かしたものを塗る。この作業および膠層を「前膠」、「サイズ」、「サイジング」などと呼ぶ。板に直接地塗りする場合は念入りに膠を引かねばならないが、今回は布を貼るので布の接着の助けになる程度に塗ってあればよい。

前膠

膠(ニカワ)ページを参照し、膠1に対し水10〜12程度の膠液を作る。1回目の膠引きはよく浸透するように水(またはお湯)で薄めて行う。表側だけでなく裏面、側面にも塗布する。翌日には充分に乾燥している。この最初の膠引きにより合板の毛羽やささくれが固まるので、目の細かいサンドペーパーで軽く磨いて削り取っておく。

乾燥

2層目の膠引きを、今度は薄めずに行なう。裏側、側面もしっかりと塗る。写真のように、ダルマ画鋲などのピンを刺して少し浮かせると、床に付けることなく乾燥させることができる。板を斜めにすると膠液が垂れてムラになるので、水平に置いて乾燥させる。一晩乾燥させ、細かいサンドペーパー(800〜1000番位)でかるく磨く。

布を貼る

板に布を貼ることにより地塗り塗料の接着を確実にし、板の接合面などを目立たなくすることができる。昔の画家の間でも板全体に、あるは板のつなぎ目や節の部分に貼ったりすることがあった。天然木には沢山の節があり、また大きなパネルを作るには複数の板を貼り合わせなければならないので、節や接合部分に布などを貼り、その上に非常に厚い地塗りを行なうなどしなければならなかった。天然木と違い、シナ合板は表面が平滑で、大きなサイズのものも容易に入手できるから、必ずしも布を貼らなければならないということはないが、全体をくるむように布貼りすれば、表面の剥がれや角部分の欠けなどを防ぐ効果が期待でる。合板は薄く切った木材を貼り合わせたものであり、個人的に各層の接着の永続性をそれほど信頼していないので、布を貼るようにしている(しっかりした麻布を貼る場合、支持体はむしろ麻であり、板は木枠ぐらいの役割とも言える)。麻布の目が持つテクスチャーがほしい場合も布を貼る。

布を合板よりも上下左右それぞれ10cmほど大きめに裁断する。ハサミは切れ味の良いものを使わないと、ほつれた糸などが布と支持体の間に入り込んだりするので注意(ほつれた糸、その他のゴミが板と布のあいだに入ってしまうと、非常にやっかいである)。

布貼り工程

板に膠液をたっぷり塗り、慎重に麻布を被せて、手のひらやヘラ等で、空気を押し出すように押し広げる(麻布は膠液をたくさん吸い込むので、膠液は常に多めに塗っておく)。

布貼り工程

布が板にしっかり密着するようにゴムヘラを使って押し広げる。折り方にもよるが、布は縦糸の方向に伸びる性質があるので、縦糸方向に圧力をかけながら伸ばしてゆくとよい。布の上からも、少し薄めた熱い膠液を塗って染み込ませる。まんべんなく膠液が行き渡り、板と布が接着されるようにヘラで伸ばし、押しつける。この作業をしっかりとやらないと、乾燥するに従って、布が板から浮き上がってしまう。

布貼り工程

表面をしっかり貼り付けたら、板を裏返し、側面の布を折って膠で貼り付ける。この時も多めの膠液を使い、後からゴムヘラなどで余分をかき取るようにする。

布貼り工程

折り込んだ布も同様に多めの膠液でしっかりと接着させ、布が重なる部分は写真のようにカッターナイフ等で切り落とす。最後に余分な膠をゴムヘラでかき取ったうえ、さらに濡れぞうきんで拭い去る。

布貼り工程

個人的には裏面の体裁はほとんど気にしないが、折り込んだ布の長さをそろえて切り落としたり、裏面全体にも麻布を貼ったりすると見た目も良くなる。

布貼り工程

再び表の面を上にし、薄めた膠液を塗って、布が板にしっかりと密着するように再度ゴムヘラで撫でつける。側面にはみ出した余分な膠を濡れぞうきん等で拭き取り、裏面にダルマ画鋲等をさして乾燥させる。裏にも空気が通るように工夫すると良いかと思う。

膠液は翌日には乾燥していると思われるが、内部までしっかり乾燥するように3日程度の乾燥期間をおく。もし布の表面の膠引きが不十分だと思ったときは、改めてもう一層サイジングを行なう。

地塗り

地塗り塗料作り

次に地塗り工程に移る。予め説明した通り、膠と乾性油により半油性地を作るが、もし別の地塗りを求める場合は「白亜地」「油性地」などのページへ進む。

以下は、道具類など特別なものを必要としない、初心者には取り組みやすい半油性地である。材料の配合は下表を参考に、以下に記述する手順で混ぜ合わせる。

材料名 膠液を1としたとき
膠液 100g
天然白亜(ムードン) 100g
チタン白顔料 100g
サンシックンドリンシード油 1/3〜1/2 40g
100g

手順画像

ステンレスボールに温かい膠液を注ぎ入れ、そこにふるいにかけながらゆっくりと顔料を入れる。入れ終わったら1〜2分ほど放置し、顔料と膠液が馴染んできたところで、ゆっくりとかき混ぜる。この時点では、激しくかき混ぜる必要はない。

手順画像

塗料が冷めてきたところで、乾性油を糸状に垂らしながら勢いよくかき混ぜる(膠液が熱いと油が分離するので、少し冷めてから油を混ぜるように)。室温が低いと膠液はすぐにゲル化してしまうが気にせずに混ぜ合わせる。油を加えるとき、容器のまま重さを量りそこから40g減るまで地塗り塗料に加えていくことで、正確に40g加えることができる。

手順画像

最後に水を加えて薄め、よくかき混ぜる。このとき熱いお湯を加えると、油と膠液が分離してしまうので注意。室温が低く、塗料がすぐにゲル化してしまう場合は、ステンレスボールをお湯に浸けて温め、液化させて使用する(ただし温め過ぎるとやはり油が分離する)。

地塗り

先に作成した塗料を布貼りした板に塗布する。布の目が大きい場合、最初の層は指などを使って念入りにすり込まねばならないこともある。塗料がはじく場合は、予め霧吹きなどで膠面を軽く湿らせておく。

地塗り

最初の層が乾いたら、2層目を前回と刷毛を動かす方向を変えて塗る。2〜4層程度塗ってください。エマルジョンの塗料は速乾性なので、数分あければ上に塗り重ねることができる。一般的に膠を使用した地塗り塗料は、濡れ色から明るい色に変わった時が次層を塗布するタイミングで、あまり乾燥させすぎると上層の水分を吸ってピンホールを作ってしまうことがある(ただし半油性地はそれほどでもないが)。

地塗り

表だけでなく、側面、裏面にも塗布しておく。表と裏に同様の地塗りを行なうことには板の反りなどを防ぐ効果がある。なお、塗料の最後の方は水分の蒸発で濃度が変わり、また乾いた塗料のカスが混入するなどして質が落ちてくるが、これをあまり重要でない裏面などに使うといいかもしれない。

1ヶ月の乾燥期間のあと、軽くサンドペーパーをかけるなどして好みの表面処理を行なえば完成。仮にも乾性油が含まれているので、ある程度の乾燥期間の後に使うのが望ましいと思われる。

備考・補足

参考文献