『西洋絵画の画材と技法』 - [支持体] -

キャンバス作りに挑戦

本頁では、地塗りしていない「さら」の布を木枠に張り、膠引き、地塗りを自ら行なって手製キャンバスを作る方法を紹介する。

材料と道具

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木枠、カナヅチ、プライヤー(ペンチ)、キャンバスタッグ、刷毛、兎膠と膠を湯煎するための道具(「膠水の作り方」を参照)等を用意。膠引きや地塗りをしていない画布(通称「生キャンバス」)は、大きな画材店で購入できる。10mのロールキャンバスが、安いものでは2万円前後で買えるが、切り売り可能な場合もある。切り売りの場合もできるだけロールに巻いてもらい、折り畳まないようにして持ち帰る。保管するときもやはり巻いた状態で保管する。地塗りをしていない生地とは言え、麻布の場合は一度折ってしまうと跡がついてそれを消すのは難しい。

木枠に画布を張る

生キャンバスのロールから木枠に張る分を切りとる。引っ張って折りたたむ分を各辺5cm程度大きくとる。この辺は地塗り済みキャンバスを張るときと同じである。

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しかしながら、地塗済みまたは膠引き済みの場合と違い、生キャンバスは膠で糸が固定されていないため、生き物のようにくねくねと曲がったりして、取扱が難しい。左上の写真は横糸の一本に沿ってマジックで線を引いてみたものだが、素の状態でこんなふうに横糸が大きく曲がっていたりする。このように曲がった状態で、定規をあてて切っても、糸と平行な方形にならない。むしろ、糸に沿ってフリーハンドで鉛筆を滑らせ、その線に従って裁断した方がいい。

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次に木枠に画布を仮張りするが、生キャンバスは糸が固定されていないので、糸目と木枠をきちんと平行にするが難しい。正確に張りたい場合は、先に布上に木枠の大きさの線を引き、その線を目安に張るとよい。ちなみに縦糸方向はよく伸びるので、すこし内側に線を引くといいかもしれない。

この時点ではまだ仮張りの状態なので、後から楽に抜けるように釘は半分まで打ち込む。どちらかというと、釘は多めに打った方が良い。生キャンバスは糸が膠で固定されていないので、木枠に張ったときに釘と釘の間に弓形の歪みができる。膠引きを行なうと、その弓の形も固定される。これは手製のキャンバスを作る場合は、どうしても出来てしまうものであって、個人的には気にしなくてもよいとは思うが、気になる人は、釘を打つ間隔を狭くすると、弓の形も小さくなる。ちなみに、キャンバスの四辺に弓の形があるかどうかは、制作方法や年代特定の判断材料のひとつとなる。

画布にコブがある場合は、針などで裏側に押し込んでおく。毛羽が多い場合は、コンロの火や、火力最大にしたライターなどで軽く炙って毛羽を焼いておくとよい。

膠引き

膠1に対し水12の膠液を作る(膠液の作り方は「膠水の作り方」を参照)。粗目の画布を使用する場合は、かなり多めの膠液を用意しておいた方がいい。布は湿り気を帯びると縮むので、縮み方が均等になるように、画面の中央から膠液を塗り始めた方がいいだろう。膠引きは画布の糸を固定し、油から麻布を守る役割も果たすので、しっかりと塗らなければならない。ただし膠はとても硬くなるので、厚く塗りすぎるとひび割れの原因になる。乾燥させるときは、床に平行に置く。

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1回の膠引きで不十分だと思われるときは2回塗る。それにしても、布は湿気によって伸縮するので、綺麗に膠引きするのは実はけっこう難しい。まず、膠液を塗ると画布が引き締まる(布は湿り気を帯びると縮む)。そして、乾燥するに従って、緊張していた画布がゆるみ、弛んでくる。しかし、さらに乾燥が進むと再び縮んで、しっかり乾燥したときには丁度良い状態になっていたりする。それでも緩んでいる場合、あるいは波のような歪み、塗りムラなどができたときは、もう一回暖かい膠を引くだけで直ることが多い。一回塗って、状態が悪くてもあまり焦らない方がいい。ちなみに張り直すときは、お湯などで膠を湿らせて柔らかくしてからでないと、最初に引いた膠の跡が残る(乾燥した膠は本当に固い)。

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地塗り

膠引きした後に、地塗りを行なう。キャンバス画で最も一般的な地塗りは、鉛白とリンシードオイルによる油性地で、柔軟性がありキャンバスのような動きのある支持体に向いている。その他、油と膠のエマルジョン地、炭酸カルシウム顔料と膠による吸収性地が地塗りとして考えられる。どのタイプの地塗りでも、キャンバスの場合は厚過ぎると割れの原因になる。

地塗りの色は白が適しており、明るければ明るいほど油絵で起こる暗変化を抑えることができる。技術上はしっかりとした明るい地が最も良い。しかし、赤褐色やグレーの有色の地塗りも好まれて使われてきた。ゴーギャンやゴッホのように、ほとんど地塗りを行なわずに、ときには全く地塗りをせずに、麻布の色を活かした画家もいる。

備考・補足

50号以上の大きなキャンバスになると、膠を引いた瞬間に布が縮み、木枠が折れてしまうことがある。大きなキャンバスの場合は、四隅を重石で押さえつけてから膠引きをしなければならない。膠引きの前にただのお湯を塗ることもある。お湯を塗った場合も画布は大きく縮み、木枠に固定されていることで、画布が伸びる。伸びた分が乾燥したときに弛むので麻布を張りなおし、本番の膠引きへと進む。下の写真はさらに麻布の上にも重石を置いて、麻布を限界まで伸ばそうと試みている。

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これまで紹介した方法は手間がかかるが、工夫次第でいくらでも手順を簡略化することができる。例えば100号の木枠を使って膠引きや地塗りを行ない、それを切って小さなキャンバスに張れば、仮張りや膠引きの効率が良くなる。膠引き済みのキャンバスを購入すれば、地塗りだけの手間で済む。膠引きキャンバスは、通常の地塗り済みキャンバスと同じ要領で張ることができ、品揃えも生キャンバスに劣ることはない。画材店のライナップにない布(強烈な綾織りの麻布等)を使うとかいう目的がない限りは、膠引き済みのキャンバスで事足りると思う。

参考文献


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最終更新日 2004年8月13日

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