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画術にまつわる文献 12完

miyabyo さんのコメント
 (2007/10/07 04:23:06)

 19世紀以降になると、18世紀よりも更に秘伝めいた技法書はすっかり影をひそめ、もっぱら科学的探究や昔日の技法書の復刻が増えていく。昔日のほとんどの手稿本・活字印刷本が、顔料を作る処方に終始しているが、人工顔料や鮮やかな色の開発、より安価、より安定した顔料への移行、というように絵具作りが画家の手を離れ専門化していく時代であってみれば、当然といえよう(それを代表するひとりがジョージ・フィールド)。それに対し、注目されていくのが、溶剤の研究である。メリメ、ヴィヴェールに代表されるように、どのような溶剤をどのように使ったのかという探求を、文献学的、理化学的なアプローチを込めつつ始まることになる。

19世紀

小野蘭山「本草綱目啓蒙」 1820年(文政3年)
 中国の李時珍(1518-1593)の著わした「本草綱目」(1578年に完成1596年に南京で上梓)を小野蘭山が日本語に翻訳詳述したもの。「巻之四 金石部」に顔料になる鉱物に言及あり。
 「小野蘭山は享保14年 (1729) に生まれ、松岡玄達に師事し、宝暦3年 (1753) に京都で私塾衆芳軒を開きました。やがて名声が高まり、寛政11年 (1799) には幕府の要請で江戸に出、文化7年 (1810) に82歳で没するまで幕府医学館で教えました。弟子は1,000人といわれ、本草家・博物家に江戸時代で最大の影響を与えました。」(国立国会図書館ホームページ解説より)
 本書の前身にあたる書として小野蘭山の講説をそのまま談話体で記された『本草記聞』がある。本書の初版は文化3年(1820年)で、文政12年にその再刻版がでたものの、いずれの版も少部数であったことや火災による消失があったことから残部数も少なく、第3版を増補の上で弘化元年(1844年)に木活字で出版されている。
●小野蘭山『重訂 本草綱目啓蒙』全二巻 正宗敦夫 編纂校訂 日本古典全集刊行会 昭和三年
 この書の底本は第4版に当たる和泉国岸和田版(第3版の27冊の合冊を20冊に合本)で、藩の侍医井口栄達が重訂を加え、弘化4年9月(1847年)開版された。底本通りの復刻のため、一切注釈が無い。
○小野蘭山『本草綱目啓蒙』全4巻 東洋文庫1991-2年
○杉本つとむ 編『本草綱目啓蒙−本文・研究・索引』早稲田大学出版部1986年


『フレスコ画芸術』M.P.メリーフィールド
●Merrifield, Mary: The Art of Fresco Painting as practised by the Old Italian and Spanish Masters , 1st Edition, 1846(Reprint, edited by A C Sewter , Alec Tiranti Ltd, London, 1952, 1966)



『油彩画史に関する史料集』イーストレーク
●Eastlake, C. L.,“Materials for a History of Oil Painting”, London (1847-86) 後に改題、“Methods and Materials of Painting of the Great Schools and Masters”, 2vols.Dover(1960).



『12−18世紀の油彩画・写本挿画・モザイク・ステンドグラス・箔置き・染料及び絵具製法と宝飾に関する原史料』M.P.メリーフィールド
●Merrifield, M. P.,“Original Treatises, Dating from the XIIth to XVIIIth Centuries, on the Arts of Painting, Oil, Miniature, Mosaic, and on Glass ; of Gilding, Dyeing, and the Preparation of Colours and Artificial Gems”1849. (rp.“Original Treatises on the Arts of Painting”, 2vols, Dover 1966. Medieval and Renaissance Treatises on the Arts of Painting, 1vol., Dover 1999)



『クロマトグラフィー』Field, George, 1777?-1854 絵具製造家、色彩理論家 英国
 特に、’ Chromatography; Or, a Treatise on Color and Pigments, and the Powers in Painting’ は有名で、オリジナルの絵具による手描き見本が載せてある。初版は1835年であるが、入手したのは1841年版。後年Winser & Newtonより色見本は印刷であるが再版されている(1885年)。

●Field, George, Chromatography; Or, a Treatise on Color and Pigments, and the Powers in Painting, &C., (1st edtion1835), London Tilt and Bogue 1841.
その他の著書
○Field, George , Chemistry The Anthology Of The Physical Sciences Indicated, London, 1819.
○Field, George, A Grammar of Colouring Applied to decorative Painting and the Arts, Book Description: Great Britain: Lockwood & Co, 1875.

参考
●Harley, R. D., Field’s Manuscripts: Early Nineteenth Century Color Samples and Fading Tests, Studies in Conservation, 24 (1979), pp. 75-84.
 フィールドの手稿:19世紀初期の色標本と退色試験
●Gage, John, George Field and His Circle. From Romanticism to the Pre-Raphaelite Brotherhood, Fitzwilliam Museum, Cambridge, 27 June - 3 September, 1989.
 展覧会のカタログ:このカタログはジョージ・フィールドを知るのに有益であった。彼の著書の紹介や彼と関係の深かった画家たち、及び英国の有名な絵具会社Winser & Newtonとの関係など。John Gageは色彩学の書を多く手がけており、ターナーの研究者としても有名。



『油彩画』1830年 メリメ Mérimée, Jean Francois Leonore (1757-1836) 仏国
○Mérimée, J. L. F.,“De la Peinture a l’ huil – ou des procédés matériels employés dand ce genre de peinture, depuis Hubert et Jean Van Eyck jusqu’ à nos jours”, Paris, 1830.
(Puteaux, Fac-simileen, 1979, 1981) \9298 (2006/09/05) 8810
○Mérimée, J. L. F.,“The Art of Painting in Oil, and in Fresco: Being a History of the various Processes and Materials Employed, from its Discovery, by Hubert and Jean Van Eyck, to the Present Time”, Ave Maria Lane, London, 1839.
 上記の英訳 



  染色関連 
●Tucker, William, The Family Dyer and Scourer: Being a Complete Treatise on the Ars of Dyeing and Cleaning Every Article of Dress, Bed and Window Furniture, Silks, Bonnets, Feathers, &c.Whether made of Flax, Silk, Cotton, Wool or Hair; Also Carpets, Counterpanes, and Hearthrugs, Published by E.L. Carey and A. Hart, Philadelphia, 1831.
 http://www.elizabethancostume.net/dyes/dyescour.html にて入手可 



『色彩対比の原理』ミシェール・シュヴルール Chevrul, Michel Eugène [1786-1889]. 1839
 フランスにおいてドラクロア(1798-1863)やスーラ(1859-1891)を語るときに常に引き合いに出されるのがシュヴルールである。実際は更に20世紀までの様々な芸術運動の底辺にあった色彩理論といってもいいだろう。ただ、ジョセフ・アルバースは、シュヴルールの挙げている灰色グラデーションスケールの作成方法では、その物理的事実と心理的な効果とのずれがあるという点を指摘している(『色彩構成−配色による創造−』白石和也 訳 ダヴィッド社1972年XX章)。

○Chevreul, Michel Eugène, De la loi du contraste simultané des couleurs et de l’assortiment des objets colorés considéré d’après cette loi dans ses rapports avec la peinture, etc. French (Paris, France: Pitois-Levrault). New ed. with an introduction by M. H. Chevreul, Jr. (Paris: Imprimerie Nationale, 1839). New ed. (Paris: L. Larget, 1969).

●Chevreul, M. E. (Trans. John Spanton), The Laws of Contrast of Colour and Their Application to the Arts of Painting, Decoration of Buildings, Mosaic Work, Tapestry and Carpet Weaving, Calico Printing, Dress, Paper Staining, Printing, Military Clothing, Illumination, Landscape, and Flower, London: George Routledge and Sons. 1870. New Edition. H Hard Cover. Fair. Undated, ca. 1870s.
 この書は、原本の英訳初版[1857年]の50増版を記念してシュヴルールの息子の管理の下で印刷された豪華版である、と記されている。刊年はないが、1870年頃のものと思われ、手書きで「1875年1月」との書込みがある。

○M.. E. Chevreul, The principles of harmony and contrast of colors and the applications to the arts, Schiffer, 1987. (Van Nostrand Reinhold (Trade), 1981)上記1839年仏版のもう一つの英訳


  染色関連 
●Textile & Fashion-related excerpts from 600 Miscellaneous Valuable Receipts worth their weight in gold, Pub. L Johnson & Co, Pennysylvania in 1860.


『昔の巨匠たち−ベルギーとオランダ絵画−』(1877)ウジェーヌ・フロマンタン
○Fromentin, Eugène, “Les Maitres d’ autrfois, Belgigue - Holande”, (1877) Libraie Plon, Paris, 1936.
●ウジェーヌ・フロマンタン『昔の巨匠たち−ベルギーとオランダ絵画−』杉本秀太郎訳 白水社1992年



『絵画の科学』J.G.ヴィベール (1891) 仏国
○Vibert, J. G.“La science de la peinture”, Paris, 1891. \2453
○Vibert, J. G.“The Science of Painting”, Percy Young, 1981.


以上で、『原史料及びその研究書』の部を終わります。

「絵画技術・技法史」を考える上で、時代別の関連原史料を踏まえておくことは、基本の基本というところでしょうか。
次の段階として、この縦軸に、皆さんの好きな、あるいは知りたい作家の画術にまつわる論文や報告書を横軸にとって、

『年代、地域、画家別絵画技術技法研究論文及び文献』へと進むと良いと思います。

すでに、別のスレッドで、ファン・エイク、ルーベンス、フェルメール等の基本文献を例として挙げておりますので、参考になさってください。
更に、

『絵画材料に関する研究論文及び文献』

として顔料やヴィヒクルなどの画材別の資料を作成するのもよいかもしれません。


最後に、
ここでご紹介してきたささやかな史料や文献が、少しでも皆さんの好奇心を刺激するものとなれば幸いです。


Miyabyoさん、ご苦労様です。

管理人 さんのコメント
 (2007/10/09 02:38:28)

ひとまず、「完」ということで、管理人として、なんといいますか、「ありがとうございます」あるいは、ちょっと変ですが「おめでとう御座います」と祝辞を述べたいところです。

先ほど、9〜12を読み終えたところです。
いずれ最初からもう一度読み直してみたいす。
なかなかいっぺんには吸収できませんが、時間をおきながら、再び読み返すことを繰り返せば、その度発見がありそうです(おそらく少なからぬ方々が同じようにされるでしょう)。

昔の技法書スレッドを設置した甲斐がありました。


なるほど、『レンブラント工房』の巻末を再確認したら、カレル・マンデルの日本語訳は進行中なんですね。
この翻訳がないとは、美術史家は何をやっているのかと思っていたのですが。。


ささやかな恩返し

miyabyo さんのコメント
 (2007/10/11 03:04:46)

ここでご紹介してきた原史料や論文は、私のささやかな恩返しなのです。

20代の頃、それまで特に気にすることなく用いていた市販カンバスが、自分の変わり始めた画法とミスマッチしていることに気付き、適した支持体を含む下地のあり方を考えるようになりました。

その一方で、ヨーロッパ絵画を尋ねる旅を通して、絵具を塗り重ねることによる光学的色彩効果(特にグレージング)が、いわゆる印象派以降の色彩学的効果とはまったく異なる味わいであることを思い知りました。これはそれまでの私の画法にはない技術でした。

また、日本の洋画で感じる黒の浅薄さ、青色とヴァーミリオン(と金箔又は黄色)の色の響き合いのなさ、これは一体なぜなのかという疑問。


そして、私にとって未知の顔料であった天然ウルトラマリンの美しさ。
(私見ですが、人工ウルトラマリンは、真性ウルトラマリンの本来の色と取り扱い方を知ることで、かなりうまく使えるようになるのではないかと思っています。この真性ウルトラマリンを似せて作られた絵具は、少なくとも生で使うものではなく、ヴィヒクル[希釈剤のみでなく]で薄めて使用するか、微量の白を混ぜて使用するというpracticeを自然に体得できるはずです。)

私は、2度目の旅行を終えてすぐに居を東京から実家の福岡に移し、エンゲル係数を極度に抑えた生活に切り替えて、探索の旅が始まることになったのでした。

下地の実験をやる傍らで、顔料ラピスラズリに関する情報を集めようとしました。
ところが、日本ではチェンニーニの書とゲッテンス/スタウトの『絵画材料事典』に記された以外の情報がほとんどない。

‥‥何年か経過し、どのような文献なら載っていそうかは見当がついたものの、今と違って遅々として入手ができない時代でした。
当時はまだNational Gallery Technical Bulletin(1977創刊号−)の存在を知らず、
唯一定期購入していたのがStudies in Conservation(1968-1985年はバックナンバーにて入手)でした。


そうした中で扉を叩いたのが、芸大の油彩技法・材料第1研究室(佐藤一郎氏)でした。そこで助手の方を通じ、図らずも閲覧できたのが

『西洋中世・ルネッサンス絵画の技法史的研究 絵画技法史文献』研究代表:辻茂 東京芸術大学1984年

でした。1987年のことです。

ラピスラズリに関する文献でどうしても参考にしたい書が2点あって、
その1点は、当時は絶版だった

●Merrifield, M. P.,“Original Treatises, Dating from the XIIth to XVIIIth Centuries, on the Arts of Painting, Oil, Miniature, Mosaic, and on Glass ; of Gilding, Dyeing, and the Preparation of Colours and Artificial Gems”1849. (rp.“Original Treatises on the Arts of Painting”, 2vols, Dover 1966. Medieval and Renaissance Treatises on the Arts of Painting, 1vol., Dover 1999)

で、もう1点が

●Faidutti, M. / Versini, C. ,“Le Manuscrit de Turquet de Mayerne”, Audin Imprimeurs Lyon (刊年無)

でした(当時はドイツ語まで手を伸ばすのは無謀でしたからベルガーは除外していました)。
2点とも資料提供していただけ、大いに研究が進んだ、という経緯があります。

私の画術研究の助走段階で得られた大事な文献は、当時は自力では無理だったのです。

この場を借りて、私の『絵画にまつわる文献』の原史料編をおおよそ公開したのも、そうしておくことで私が感じたその時の恩を共有していただける方がおられるかもしれない、と思えたからです。


挙げた文献や原史料に対する議論はなるべく慎んだつもりでしたが、まったくないもの味気ないだろうと思い、少し突んだところもあります。又、ぶら下がりの関連書籍や参考文献もなるべく削ってシンプルにしたいと思いつつも‥‥、まあ余興と思って下さい。


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