顔料 (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) [コメントする]

顔料 (1)」からの続き。


顔料 (2)


回答

木村 さんのコメント
 (2003/03/30 10:06:37 -
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1、は推測ですが、色は粒子が細かくなれば顔料の屈折率の関係上、色調が薄くなる点。
もう一つの方は、練り合わせの際に細かければ比較的に練りやすい点。
この2つについてのことではないでしょうか?
2、はこれも推測ですが、チェンニー二ー・藝術の書では、第一・第二の採取されたウートルメールが、上質とあったので後記が正しいような気がする。
3、も後記の様な気がします、これはパテが顔料の不純物を吸着したもので、再度の使用は役には立たないのではないか?
4、は「エッチングに使うグランド」ですよね!
これが私の推測です。
私自信、顔料製作のまねごとはしてるんですが、乳鉢での水簸法だけでは足りなく、ポットミルのような粉砕機を使用して行き、パテによる処方もやっていきたいのですが、それにはまずミルによる安定した粒子の顔料が欲しいのですが、一般的な陶芸用の粉砕機で良いんでしょうか?
もし分かる方がいたら教えてください。
お願いします。


Re.回答

Miyabyo さんのコメント
 (2003/04/02 03:59:09 -
E-Mail)

木村さん、はじめまして

早速の回答有難うございます。
あまりにも早いレスで、少々心和みます。

解説など含めた解答は、しばらくお待ちください。
もっと違った観点と回答をされる方もおられるかもしれませんので。


ミルの件ですが、私はパテに入れる粒状を予め揃わせすぎるのを好みませんので、使ったことがありません。というより、せっかくの半貴石を潰してしまうわけですから、私は自分の力で石が潰れる音を楽しみます。

ですから、逆にミルをご使用になるのでしたら、そのご報告など頂けるとありがたいです。



ラピスラズリの処方のなぞなぞ解説

Miyabyo さんのコメント
 (2003/04/16 01:17:42 -
E-Mail)

2週間をとっくに経過しておりました。
なぞなぞに直接参加していただいた木村さん、有難うございました。
では、私なりの解説をしておきます。


1.ラピスラズリの粒子は予めどの程度細かくしておくのでしょうか?
  これは、ちょっとなぞなぞの仕方が不十分でした。鉱物ラピスラズリをパテと一緒に捏ねる前の下拵えでの留意を述べた部分から引用したのですが、

正解は、実はどちらも正解なのです。ただし、ヴィヒクルに何を使用するのかが重要な鍵ではあります。

フレスコ画用(水)、テンペラ画用(水溶性ビヒクル)の場合は、
  「心すべきは、細かに挽けば挽いただけ、この青顔料は細かになるが、濃い菫色の美しさは失われてしまうということである」 チェンニーノ・チェンニーニ『絵画術の書』辻茂 編訳 岩波書店1991年(36頁)

  油彩画用の場合は、
  「軟膏のように細かくなるまで‥‥よく練るように」『ド・マイエルン手稿』fol. 76 となります。

解説:チェンニーニ『絵画術の書』は、1400年前後に書かれており、彼は多くの技法について言及していますが、水性メジュームの技法に軸足を置いてもっぱら述べています。
「色は粒子が細かくなれば顔料の屈折率の関係上、色調が薄くなる」おっしゃる通りです。テンペラに用いられたヴィヒクル(卵黄や膠)の屈折率の問題から、すべてを軟膏のように細かくするわけにはいきませんでした。

一方、『ド・マイエルン手稿』は1625-40年に書かれており、対象はもっぱら油絵具で、一部油絵具との併用技法に合う粒状度が前提でした。ラピスラズリの部分のみテンペラで施される技法は、この時代も引き続き行われていました。時代は下り、フェルメールもそのようにしている作品があります。

したがって、細かく磨り潰したのです。ド・マイエルンは、この手稿を様々な言語で書いていますが、ラピスラズリの処方のほとんどは英語(5処方中1処方のみ仏語)で書かれており、英国に出稼ぎにきていたフランドルの画家及び英国生まれのノ―ゲートより処方を聞いたと思われます。



2.パテから滲出する最初の青粒子は大きいのか小さいのか?
  正解は、 「最も大きくて、最も深い色あいをもつ青粒子が最初にでてくる」です。
  Plesters, Joyce, “Ultramarine Blue, Natural and Artificial”, Studies in Conservation, vol. 11, No.2, IIC London, 1966, pp.62-91, p.63) 
現在、Roy, A.,“Artists’ Pigments Vol.2”, Oxford Univ. Press, 1993で読むことが可能です。

  ゲッテンス/スタウト『絵画材料事典』は、今でも有益で重要な事典だと思いますが、引用した部分は明らかに誤りです。このことを指摘している文献は今のところありません。



3.残ったパテは次回も流用できるのか出来ないのか?
  正解は、
  「パテは、一度使ったものは決して役立たず、松明や点火棒を作る以外に使いみちはないということも留意せよ。」
E・ノーゲイト『細密画または写本装飾画論』

  解説:パテの内容物にもよりますが、揮発性物質が飛んだりリンシード油などの油分がアルカリ液で加水分解(鹸化)を起こしますので、配合比にも変化を生じ、私は再利用すべきでないと判断します。


4.顔料ラピスラズリを抽出する時に使う材料が原型となっていると思われる材料が、ある技法の重要な材料にあります。さて、それは何でしょう?
  正解は、もちろん
  「エッチングに使うグランド」 です。
   
  解説:ご承知のように、腐食防止剤としてのグランドの内容物は、松脂(コロホニウム)、蜜蝋、マスティック樹脂、ダンマル樹脂、(色が黒いものには別途アスファルトを混入)などです。もちろん、17世紀までのパテにはダンマル樹脂は入っていませんが、鹸化値が若干異なるだけですから、私は、自家製のパテの場合マスティック樹脂をダンマル樹脂に替えても問題ないと助言しています。また、『ボローニャ手稿』にはアスファルトを入れる処方もあるのですが、パテ内の青粒子の抽出状態が確認できないので、内容物に加えることを勧めません。

 グランドの作り方は、やや古い本ですが、深沢幸雄『銅版画のテクニック』ダヴィット社1966, pp. 26-31は参考写真が多く、詳しいかと思います。ただし、ここで紹介されている処方は、松脂、蜜蝋、アスファルトを材料にしています。

 このパテの内容物とグランドとの関連について言及している論文(ラピスラズリ及び天然ウルトラマリンに関する諸外国の論文)は今のところありません。
 ちなみに、グランドの方ですが、現在はマスティック樹脂が高価であるために含まれていません。

●パテの一般的な留意点。
当時の処方に見られる名前と現物とが今日我々が知っているものと必ずしも一致しないということです。

例えば、チェンニーニとマイエルンの処方で使用されるパテの材料を見てみましょう。
 
チェンニーニの処方
ラピスラズリ原石1リプラ(約320g)に対して
松脂6オンチャ(1オンチャ≒28gで)
乳香3オンチャ
蜜蝋3オンチャ(新蝋)
リンシード油適量(粉砕したラピスラズリとパテを合わせるときに使用)
※1リプラ=12オンチャであるから原石とパテの材料の配合比は1:1

マイエルンの処方
ラピスラズリ原石1ポンドに対して、以下の材料を各2オンス
白樅の樹脂(あるいはむしろ松脂) ※白樅樹脂はストラスブルグテレピンバルサム
ギリシャピッチ又はコロホニー
マスティック樹脂
リンシード油
テレピン
蝋(蜜蝋)
※こちらも配合比は1:1です。

現在重量1ポンド=16オンスが一般的ですが、彼はパリの1ポンド=12オンスを使用している。
彼はスイスで生まれ、ハイデルベルグ大学を出たのち、南フランスの地中海に面したモンペリエ大学にいき、そこで1597年までに医学士号及び医学博士号を取得。その後故郷のユグノー派の縁故を頼りにパリに出て開業し、たまたまイギリスの貴族の治療に当たったのが縁で渡英することになります。

彼は、仕事先に英国を選びましたが、当時のヨーロッパ大陸側の人間と同じく英国を田舎と見ており、英国の習慣が我慢ならず、必要以外決して英語を話さなかった(といっても宮廷ではほとんど仏語で用足りた世界で、変な例えながらわが国の大和朝廷時代の上流世界が当時の先進国であった韓国の言葉がかなり話されていたことと似ている)ほどの徹底ぶりでした。
平たくいうと、当時は1ポンド=16オンスなどは、一島国のローカルな単位だったのです。
(暴言:天然資源に乏しく、すでに特に優れる産業もなく、日本のような加工技術も既になく、世界を動かす指導力もなく、ただ金と宝石の元締めというだけの英国ポンドのレートがなぜドル、ユーロ、円よりはるかに高いのか不思議だと思いませんか?)

さて、ここにいう松脂は、現在では琥珀色をした固形物で、揮発物質のテレピンを抽出した後の状態を示します。しかし、当時は、ほとんどの場合半流動体の含油樹脂(オレオレジン、バルサム)を示します。
現在いうところの松脂は、上記のマイエルンのいう「ギリシャピッチ又はコロホニー」です。

仮にチェンニーニの「松脂」を現在言う松脂(正確にはコロホニー)で実施するとあまりにも硬いパテになって使用するのが困難です。したがって、チェンニーニの処方で行う場合は、松脂の重量比で2割ほどテレピンを加える必要があります。つまり、元のバルサム状態の配合比状態にしてやると良いのです。


なぞなぞの件は以上です。


こちらのスレッド「顔料」はいつしか私のせいで、ラピスラズリオンパレードになっています。

●少し趣を変えて、緑の顔料についてなぞなぞを出します。
鉱物顔料としての緑の筆頭は、マラカイト(孔雀石、岩緑青)ですが、それ以外にグロコナイト(海緑石)、セラドナイトなどがあります。

これらは日本でも採れますし、グロコナイトの古い使用例としては高松塚古墳があります。
また、このグロコナイトは、西洋ではテル・ヴェルトの名で有名です。

さて、そこでなぞなぞです。
日本では一切使用例がなく、又西洋でも使用例がまれで、つい最近復活している緑鉱石顔料があります。

その鉱石の名称は何でしょうか?

ヒントは、この顔料はかつてイコン画に使用されて、ロシアでは特に使用されたものです。

これを日本で知っている方はほとんどいないと思いますので、あえてなぞなぞにしてみました。なかなか素晴らしい色ですよ。

かえるさんは答えないで下さい、なぜならペテルブルグ、エルミタージュ美術館で修復の修行をされたかえるさんから原石を貰ったのですから。

多分、問題が問題なのでレスはないかな?では2週間後あたりに。


緑色顔料のなぞなぞ

キテレツ さんのコメント
 (2003/06/12 18:47:12)

Miyabyoさん、そろそろ回答をお願いします。

私もラピスラズリから自作顔料を作っていますので大変勉強になります。


なぞなぞの緑鉱石顔料とは

Miyabyo さんのコメント
 (2003/06/15 18:47:32 -
E-Mail)

キテレツさんのベースは日本画ですか?テンペラですか?


知られていない緑鉱物顔料について

そういえば、すっかり放ったらかしでした。

知りたい方がおられればレスがあるだろう、でも多分ないだろうと勝手に決めておりました。

さて、この顔料となる鉱石ですが、色はマラカイト(岩緑青)より青緑で、青の強い緑から鮮明な黄緑色までその成分によって変化します。

化学式は、CuSiO2(OH)2で、銅Cuと珪素Siを含むことから想像できますように、大体マラカイトと同じ鉱床で見つかる珪酸銅。

マラカイト≪CuCO3.Cu(OH)2≫は銅鉱床の上層に位置して見つかりますし、それより上にかなり薄い層でアズライト≪2CuCO3.Cu(OH)2≫が見つかることがままあるのです。アズライトは時の経過でマラカイトになってしまうために、マラカイトよりもかなり少ない量しか採れません。

ところで、8世紀頃の処方書『ルッカ手稿』や12世紀頃の『マッパエ・クラヴィクラ』には、人工青顔料の作り方が載っていて、その材料に使用されたのが銅を使ったものと銀を使ったものがありました。銅を使った人工青顔料は判るとして、なぜ銀を使うと青になるのか?
しかも、処方には混じりけのない純粋の銀を使用するように書かれているのです。
実は、当時の精製法ではいかに純粋にしようとしても銀に不純物を含み、その不純物が銅であったわけです。つまりその不純物の銅と反応して青顔料ができたわけでした。
という訳で、金山や銀山からもマラカイト、アズライトは採れることがあります。

念のために申し上げれば、銅鉱床で以上の3つの鉱石が必ずセットで含まれるというわけではありません。その鉱床の環境や古さとも関わりますし‥‥。

(16世紀になって政治的事情からアズライトの供給がうまくいかずにいろんな銅鉱山を探すのですが、その一方で、人工青顔料の実験が盛んに行われました。
やがてブルー・ヴァーディターやスマルトがパレットに現れることになります‥‥)


さて、話を元に戻しまして、

その名は、ずばりdioptase。その語源はギリシャ語の“diopteia”からで、意味は「透き通って見える」です。英語名はemerald copperで、和名は翠銅鉱です。これを顔料として使用された例は、日本ではまだありません。といいますか、顔料名として挙がっていません。また、ロシア正教などを除き、西洋絵画でもこの顔料が同定されたという論文がありません。

10μ前後まで磨り潰すと絵具エメラルドグリーンの色になってしまいますが、ロシアイコン画では、深い緑色に見えますので、おそらく40µ以上の粒状度で使ったのではないかと思われます。
ロシアの供給源としてはカザフスタンのキルギス大草原地帯です。現在は、その他に、アフリカではザイール、コンゴ、ナミビア、アメリカではアリゾナとカリフォルニア、またチリでも産出されています。
マラカイトは鈍い緑色をしていますが、この鉱石Dioptaseは輝くようなヴィリジャン色をしています。知らない人に見せるときっと「宝石だ」というほど美しい色をしています。

日本画を描かれる方にも是非、試していただきたいところです。

以上お答えいたしました。

●ラピスラズリについて
キテレツさんのレスに≪私もラピスラズリから自作顔料を作っています≫とありましたので、今回看過することなくお答えすることにいたしました。

キテレツさんは、どのような使い方をされていますか?粒状度やメジュームなど。
あるいは、自製される上での問題点などお聞かせいただけますか?
何でも構いません、ぜひ、お願いいたします。
こちらのHPで、自作されているという方のレスがまったくありませんので。
キテレツさんのレスをお待ちします。

●独り言。木炭デッサンの影と陰の狭間で
昨今のいろんなHPを覗いておりますと、本来「こんにちは」が正しいにも関わらず「こんにちわ」を使う方が多いですね。いつ頃からなんでしょうかね?
いまさらいうまでもなく、「こんにちはおひがらもよろしくて‥‥」と続く挨拶言葉を「こんにちは」のところで端折ったものですから、どうしても「は」でないとならないのですがね。

ところで、私は娘に木炭デッサンを教えた時に、「カゲ」という言葉をかなり厳密に使い分けて説明したことがありました。

日本語には「カゲ」と読む単漢字がたくさんありますが、英語ではshadowとshadeしかありません。shadowは「影」で、shedeは「陰」ということになりましょうか?

最近の日本でもいつしか「影」と「陰」しか使わなくなったために、少し残念です。
例えば、
1.「影」と「景」の違いは?

2.「陰」と「蔭」の違いは?(「蔭」の方は意味的に「翳」とほぼ同じです。)

お判りになりますか?すべて「カゲ」と読み、すべて意味が違います。多分普通の漢和辞典では1.と2.の違い程度しか載っていないでしょう。
例えば、蔭⇒陰 とか、翳⇒陰 などとなっていて、その先がないものがほとんどのはずです。

1.の「影」の方は説明するまでもないでしょう。大事なのは、基本はモノクロの影であること。一方「景」はカラーであることです。カラーのカゲなんてあるの?といわれるでしょうが、水面に映るカゲ(山、木々、空、等々)といえば納得されるでしょう。なぜ、風景、景色、光景に「景」の字があるのかも、それが色のついたもののカゲ(姿)を示すからなのです。

2.の「陰」は例えばある物体の光が当たらない裏の方を示しますよね。一方「蔭、翳」は光の当たらない部分の空間を表します。つまり影と陰とに挟まれた空間。「蔭」は草の葉によって遮られた空間を示すために艸冠がついていますし、「翳」は、川岸などで鳥が羽を水面を覆うように広げて光を遮って、魚を捕りやすくしている状態からきている漢字なのです。

受験生さんの石膏デッサンなどを見ておりますと、この「蔭、翳」の表現が甘いと感じることがよくあります。光の当たっている方のカラッとした空気と「蔭、翳」のしっとりした空気の描き分けをしないんですね。描き込むというのは、白い石膏を「迫力が出る」といって黒くしてしまうことではないのですが‥‥。

私は、娘には随分くどく教えました。

皆さんはどう感じられますか?


Re> 緑鉱石顔料とは

キテレツ さんのコメント
 (2003/06/16 02:34:00)

Miyabyo さん
ご回答ありがとうございます。

> マラカイトは鈍い緑色をしていますが、この鉱石Dioptaseは輝くようなヴィリジャン色をしています。知らない人に見せるときっと「宝石だ」というほど美しい色をしています。

ヴィリジャン色とは、大変興味があります。 


> キテレツさんは、どのような使い方をされていますか?粒状度やメジュームなど。
> あるいは、自製される上での問題点などお聞かせいただけますか?

通常の顔料として使用してます。主にテンペラ・グラッセと油です(遊びでは色々やりましたが)。 
日本画もやりますが、日本画には使用したことはありません。

メジューム: テンペラの場合は自製のもの。あぶらは色々苦労した結果、くさかべのオイル用メジュームを使用してます。くさかべのラボに電話を入れたのですが企業秘密ということで内容はわかりませんでした。

粒状度: 試行錯誤の上、比較的粗い粒子に落ち着きました。指でつまんで擦った時にザラザラ感がない程度です。

製作法及び問題点: 皆さんとはまったく異なった方法(手抜き)なので恥ずかしいのですが、当初チェンニーニの手法で苦労とお金を使いました。結果、時間、採取される顔料の質・量と金額を考慮しパテなしの方法にたどり着きました。

1.不純物の含有量の少ない鉱石を入手。アフガン産の原石(ミネラルショップで販売の場合)は加工品より高いため、小粒になった加工後の屑を安く譲り受けてます。100グラムで1,000円ー3,000円位。
2.大雑把に砕き、ピンセットでグレードごと分類し、より細かく砕く。 以上。
ハイ・グレードは100グラム中30グラムくらい採取できます。1万円以内でそれも短時間で100グラムの天然ウートルメールが出来あがります。

近所で自製している工房があるのですが、顔料自体の色は私のほうが勝っていると自負してます。

チェンニーニの手法にも書いてありましたが、乳鉢で砕く際、水は一切使わない事です。発色がくすんだように感じ、それ以降水は使用しません。以前は乳鉢で石を摺る場合、粉飛びを避けるため水を使ってました。 この件で知人経由で芸大の先生に聞いたところ、全ての工程で水は使わない事、またたとえ石を砕きやすくするためオーブンで焼く場合でも冷却水にはワインヴィネガーを使うと言ってましたが、真意はわかりません。あと無駄なことは止め絵を描けとも。 


ラピスラズリのこと、キテレツさんへ

Miyabyo さんのコメント
 (2003/06/18 01:01:00 -
E-Mail)

キテレツ さん 早速レスして頂いたことをありがたく思います。
鉱石Dioptaseに興味を持っていただくと、Dioptaseも喜ぶことでしょう。私は特に日本画をやられておられる方にはお薦めできると思います。

●ラピスラズリの色と粒状性
私がラピスラズリに興味をもち始めたのは、2度目のヨーロッパ旅行から帰ってきてからのことで20数年前のことです。現在どのような色で顔料ラピスラズリが売られているのか、今年に入るまで知りませんで、ただひたすら、絵画に残っているラピスラズリの色と、ギメが人工ウルトラマリンの色合わせに選んだであろうその当時入手できた最良の色を空想し、そして、自分が画家として使いたいと思う色をしていることを条件にしました。

その結果、もっとも素晴らしいと思えるものは、乾燥顔料の人工ウルトラマリンより濃く、また、粒状性を考えてブレンドしているもので乾燥顔料のコバルトブルー程度の色をしています。

ところが、今年に入って、びっくりしてしまったのです。
現在、市販品は、日本のものと外国のものの2アイテム4グレードをもっておりますが、それが届いた時は、はっきり言って、何だこの色は!でした。

少なくとも最高グレードの色は人工ウルトラマリンの色をしているべきだと考えていたのですから、その水色のような、あるいはラピスラズリ灰に近い色を見てがっかりしたのでした。きっと、ギメがこの世にいたなら、なんで私がこのような色を見てあんな色を作るものか!俺はもっと濃い色の顔料を見ている!というに違いありません。


そこで、顔料ラピスラズリの色は、不純物の除去と粒状性で決まりますので、どうしても顔料の平均粒状度を測る必要を感じ、島津製作所の方で計測をお願いしました。

詳細は今度出る論文の方を見ていただければ幸いですが、市販の日本製は10.5µ、外国製で17.5µ(日本製より濃い)、外国製とほぼ同じ色の私のものが13.1µ。
また、私のコバルトブルー程度のものが、20.2µ、人工ウルトラマリン以上の色が50.5µでした(これは実際は45-50µの間であろうと思われますが、その理由はここでは省略します)。

さらに、ラピスラズリ灰が8.4µ。

大きさの目安は、日本顔料の岩絵具の番号で言いますと、大雑把ですが10µが13-14番、20μが11-12番、40µが9番あたりということになるでしょうか。


1.ほとんどの論文には粒径を書いていませんが、いくつかの論文には載っています。実際に使用された顔料の分析には顔料同定用にサンプリングされたクロスセクションを流用しており、しかも異なる算定法に基づいていますので、一概に同列には比較でませんし、また実際の粒径より小さく評価する傾向があると計測者自身が書いています。
それを前提にフェルメールの粒径は平均10μで最大30µを超えています。

2.現在の我々は昔の画家ならインクに使用するほどの顔料の粒状度に慣れすぎていて、ゴロゴロした粒を使いこなしていた頃の画家たちからするといかにも華奢だと思ってしまいます。
フェルメールの使った鉛白は50µ以上でしたが、我々は0.7-2µ程度のものですし、スマルトは平均25-30µで最大75μ以上を使っています。『デルフトの風景』などは、画面を斜めから見るとあの静謐な風景空間(あの風景のむこうには戦いで崩壊した建物の残骸がゴロゴロしているらしいのですが)とは対照的に、顔料の粒が盛り上がっていてゴツゴツしています。

他の画家では、レッド・オーカーが150μ以下ですが、我々は0.4-0.5µを使っています。

以上は油彩画での使用例ですが(フェルメールは一部テンペラを使用)、テンペラがメインの頃の顔料ラピスラズリの粒子は、もっと大きかったわけです。チェンニーニがあまり細かくしすぎるなといっているのは、当時の写本彩飾画では、後の油彩画用と同等程度にしつこく練って細かくしていましたから、それを念頭に、チェンニーニは戒めたわけです。

●訂正
≪当時の精製法ではいかに純粋にしようとしても銀に不純物を含み、その不純物が銅であったわけです。≫
と、勢いで書いてしまいましたが、正確には、当時でもほぼ純粋の銀が抽出できましたが、実用上不純物として数%〜10%の銅が入っています。除去できなかったのではなく、除去しなかったというのが正確な表現です、その銅が反応して緑に近い青ができたということになります。

●奇妙奇天烈の話(単に語呂合わせです)
キテレツさんのお話によると、
≪知人経由で芸大の先生に聞いたところ、全ての工程で水は使わない事、またたとえ石を砕きやすくするためオーブンで焼く場合でも冷却水にはワインヴィネガーを使うと言ってましたが、真意はわかりません。≫

水を使うかどうかという点は、精製水又は冷まし湯を使用する限りにおいて言えば、そのことによって後の結果に重大な違いを引き起こすことはまったくありません。

ただ、ご指摘のチェンニーニが「水を加えずに」といっているのは、銅製乳鉢などで大方磨り潰したラピスラズリを、今少し細かくすべく斑岩石盤に移してからのことです。
昔日の彩飾写本の技法書は、色材をインクと顔料とに分けて処方を記してありますが、特に顔料の場合は、微細にして磨り潰す関係で、斑岩上で蜂蜜と一緒に練ったり、ゴム水液で練ったりする処方があります。そこまで細かくしたくない場合は水などを加えずに練り棒を動かしただけのことです。

他の顔料ラピスラズリに関する大方の処方は、粒子を細かくする工程で斑岩又は乳鉢で練るときに何かと一緒に細かく磨り潰すかどうかの指示はなく、ただ磨り潰せとあります。

油彩画用としては、『ド・マイエルン手稿』では、下準備として軟膏のように細かくなるまでリンシード油と一緒に30分、大理石又は別の硬い石の上で練るよう言っています。その上でパテと一緒にしています。

私は乳鉢で粉が飛ばないように水を張って圧し潰しをしています。詳細は論文に譲ります。


さらに、ワインヴィネガーの使用は、最良質の原石には使用する必要はありません。というよりむしろ害です。
「たとえ石を砕きやすくするためオーブンで焼く場合でも冷却水には雨水(昔)を使う」べきなのです、最良質のものの場合は。

本来希酸にさえ弱いラピスラズリです(そのためにご存知のようにフレスコ画には使用しません)から、本当は使用しない方がせっかくの青みを脱色せずに済むはずなのです。

では、なぜ使用するか?といえば、ワインヴェネガー程度の酢酸は鉱酸などより比較的顔料を侵す速度が遅く、一方ラズライトよりCaを含む方解石などの方がその酸に敏感に反応するのです。つまり、上質でないラピスラズリ原石に多く含まれる方解石などをなるべく分解させる必要があってワインヴィネガーを使ったのです。単に石を割りやすくするだけではありません。

私は実験でこのことを確認済みです。赤熱させた並質の鉱石を酢に入れると酢の温度が急上昇し、すぐにCaを多く含むあたりから気泡が湧いてきます。また、その原石を酢に1日入れたままにしておくと青の色みが薄くなり、部分的にかなり白っぽくなりました。顔料になった微粒子のものでも1日放置しますと、粒子の数が随分減って、その残っているものも全体的に色が淡くなっておりました。又、日本画画材店にある方解末No. 7での実験では、常温でもすぐに発泡が始まり、比較的短時間で跡形もなく消滅しました。使ったのはPH.4の米酢(どういった酢が最適かの実験は実施していませんが、日本の酢と同様に昨今のワインヴェネガーも随分中身が変わっています。肝心なのは弱酸性であることと、できるだけ余計な添加物がないもの)。

ラピスラズリは、ドロマイト大理石の鉱脈にわずかに挟まって見つかるので、当然ながらラピスラズリの鉱脈の周辺はCaを含む方解石などの比率が高くなります。鉱石を採る時は、大掛かりに火を起し、熱くなったところで水をぶちまける、ということを何度も繰り返して割りやすくしたのだそうです。近年までその仕事は犯罪人や捕虜が行い、1日の作業が終わると鎖につながれるという日々だったといいます。当然人権などなく出口もない場所だったようです。

かつて一時期、まだアフガニスタンが旧ソ連と戦っていた頃、東京の御徒町界隈に軍資金目当てに放出された質の良くない原石が結構出回っておりました。上記の酢の実験に使用したのはそのとき入手した原石です。通常私が入手しているのは、原石の仕入れから加工までを行っている宝飾屋さんで、原石以外にも加工に失敗したものや宝石には向かない部分を気分次第で無償だったり有償だったりです。現時点の原石ストックは1kg弱。顔料は2kgというところでしょうか。

ところで、邦訳されたクヌート・ヴェールテの『絵画技術全書』p. 230-231. には、わざわざ「ラピスラズリ」と「天然ウルトラマリン」とを分けて書いてあります。
ようは、この世には単にラピスラズリを細かく磨り潰したもの(ラピスラズリ)と、パテなどの処理工程を経たもの(天然ウルトラマリン)がある、ということをいっているのですが、知らない方が読むと紛らわしいですよね。


●≪あと無駄なことは止め絵を描けとも。≫

どこにも面白い人間はいるものですね。こういう人に限って、ダ・ヴィンチに対しても「無駄なことをしないでもっと絵を描けばよかったのだ」と云いかねません。何が無駄かわからないのが人生でしょ? 捨て置くのが一番です。

※今回の論文に当たって撮影した顔料見本があります。キテレツさん、もし顔料見本ご希望であればメールを下さい。メールアドレスがありませんので、ここに記しておきます。
ここに公開することも考えましたが、今はよして起きます。

私はこの顔料は自分の部屋を飾るための絵にしか、今のところ使用していません。したがってコストのことや無駄な研究も私にはリクレーションなのです。

ただ、こちらにレスするようになって、以外にも顔料ラピスラズリに興味をもたれていることに驚いています。多分、日本では、この研究は無駄な研究でもないのではないかと、論文を頼まれてからは思い始めて、提出を遅らせてまさぐっている昨今です。


顔料 (3)」へ続く。


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