顔料 (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) [コメントする]

顔料 (3)」からの続き。


顔料 (4)


西洋におけるスマルト使用例の補足

miyabyo さんのコメント
 (2004/10/03 23:47:22)

スマルトの使用例について補足
前回書き込み後、更に早い使用例があったので、以下補足しておきます。

ロンドン・ナショナルギャラリーにあるデリク・ボウツの1455年頃作「埋葬The Entombment」
この情報は、1993現在としておきます。

したがって、少なくとも15世紀中葉には北方絵画で使用されていた。


西洋の顔料と岩絵の具

sang さんのコメント
 (2006/03/02 04:19:21)

ミヤビヨさん、はじめまして。 お忙しいなかレスありがとうございます。 ビギナーズ掲示板から移ってきました。

まずはじめに、私は顔料のことや絵画のことについてそれほど詳しくなく、実際ミヤビヨさんの書かれたスレッドを読ましていただいても知らない単語も多く、すごく専門的だなぁ、、と驚くばかりでしたので、私の質問にたいしてのご返事を求めることに関しても少し後ずさり気味です、、、。
 とはいえ、今後顔料を使っていく上で役に立つであろうことは確実と思われますので、時期はいつになってもかまいませんので勉強させていただければありがたいです。

 このような私なので実際に知りたいことはそれほど専門的なことではないのですが、私は日本画の岩絵の具を使って仏画を描いているのですが、現在はヨーロッパに在住しております。
今のところ以前日本で買っておいた岩絵の具を使用しているのですが、それ程沢山買いだめしていませんのでいずれなくなります。
そこで、こちらで手に入る顔料の中から使えるものを探そうと思い画材屋に行ってみたところ、もちろん岩絵の具はなかったのですが、同じく天然石を砕いた顔料が多く見つかりました(多くはクレマー社のものでした)。
 私が使うのは岩絵の具だと、11〜白番の細かい粒子のものばかりですが、もしこちらで手に入る顔料でその代用ができるかどうか、、、というのが質問の内容です。

あんなに詳しい顔料スレッドを書かれている方に、なんだか初歩的な質問ですみません、、、そう思って初心者スレを選んだのですが、、、。

どうぞよろしくお願いします。


同じ質問。

sang さんのコメント
 (2006/03/15 03:24:48)

こちらでのお答えを待つ間にもう一箇所聞いてみたい場所が見つかってしまいましたので、そっちでも同じような質問をしてしまいました。 もちろんこちらのほうでの回答がいただけることにもとても期待しております。どうぞご容赦ください。
 


Re. 西洋の顔料と岩絵の具

miyabyo さんのコメント
 (2006/03/15 05:01:44)

●まえおき 又は「顔料体験」
以下では、主に西洋の天然顔料と日本の天然岩絵具の私なりの感想と、西洋の天然顔料を使用する場合の加工(改良)の仕方などを記すことになりますが、基本的にはなんら変わるところがないことをまずいっておきます。
日本に西洋のテンペラ画法が定着している昨今、既にヴィヒクルの違いによる顔料の使い分けにはあまり意味はないと思っていますし、私は、天然顔料や日本画用の色材は、粒状度の異なる様々な色材として同等に扱っています。

非売品ですが金沢美術工芸大学で出された『報告書 昔の顔料の研究』は、粒径に関しては言及されていませんが、西洋・日本双方に目を配りながら昔日の顔料について述べてあり、小冊子ながら非常に有益でしょう。

話は数十年前に遡りますが、油彩画を学ぶ者の間で、「顔料体験」という言葉が流行った時期があります。これは、いわゆる「日本画」を学ぶ方にとってはごく日常的な体験であるわけですが、西洋絵画技法史での位置づけとして油彩画技法に移行する以前の一技法と捉えられていたテンペラ技法が、絵画技法として日本でも再認識され多くの大学で講座等が設けられるに及び、それまでほとんどチューブ絵具を通してしか色材を知らない油彩画の学生にとっては、改めて通過すべき体験でもあったのでした(無視・拒否・非難と様々な対応がありましたが)。又その一方で、油彩画そのものも、洋画移入黎明期の「旧派・脂(ヤニ)派」から「新派・外光派・紫派」に移行して以降の、日本のいわゆる「西洋画」的技法に欠落していた、例えばファン・エイクなどの北方絵画で基本的技術としてあったグリザイユ技法・有色下地などを通して、再度「油彩画」そのものを捉え直すという作業もありました。

その時々に応じて、当時の画学生にとって刺激剤となったのは以下の書でした(邦書、邦訳書に限定)。
 C・チェンニーニ「芸術の書」1964年
 ド・ラングレ「油彩画の技術」1968年(新版1974年)
 寺田春弌「油彩画の科学」1969年(参考:「古典画法から学ぶ油絵の基礎技術」アトリエNo.586)
  (R・ウッディー「ポリマーペインティング」1970年)
 ゲッテンス/スタウト「絵画材料事典」1973年
 田口安男「黄金テンペラ画の技法」1978年
 ディルナー「絵画技術体系」1980年

しかしながら、ウッディーや、ド・ラングレの新版(「アクリル画とビニル画」追補された)が示しているように、すでに石油系のポリマー樹脂を使った絵具も加わり、はたまたエアーブラシ用の新インクの開発なども加わり、画材に基づいた教育が多様化し、徐々に漠然としていく時代でもありました。
その傾向は、更に拍車をかけ、現在一部の美術大学では、日本画科と油絵科を廃止統合されているところまできています。

極論すれば、絵を描くための道具は、個々人がこだわり、その道具に伴う知識も技術も個々人で磨くということが、以前にも増して求められる時代になっているといえます。あまりにも当たり前のことで、いまさら言うまでもないといえばそれまでですが、基本的な道具の理解(manner, method, practice)もないまま、ただ絵面(えづら)の面白さを追い求め、その半ばで空中分解している学生さんがいかに多いかという現実も片方にあると思っています。
やはり、どこかである時期「絵の道具」について改めて徹底して教育を受けるほうが良いのでしょうが、かつてはその役割を果たしていた「予備校」ですら、暗に予備校に来る前に予め知っておくべきこととして、その役割を放擲して久しく、では中学や高校でそうした知識を有する教師がいるのかといえば、はなはだ心もとない。いや、はたして中学や高校で教えることが妥当なのかどうか‥‥。これも日本の一般的な現状でしょう。

‥‥片方から、道具を知っても良い絵が描けるとは限らない、道具を知らないからこそ枠に囚われない良い絵も描ける、というささやきを聞きながら、これを読んでいる方もおられることでしょう。また、どのように描こうが良い絵はある、とも。
ひとまず、
「道具を知っても絵が描けるとは限らない、道具を知らないからこそ枠に囚われない絵も描ける」
として、その上で、
「道具を知れば描ける絵がある、道具を知らないからこそ枠に囚われて描けない絵もある」
とささやき返してみましょう。
私には、どちらのささやきも魅力的です。
そして、そう、どのように描こうが絵になる、という単なる事実。

我々が絵具を必要とするとき、その色さえあればよいというものではありません。絵具が持つ粒状度もマチエールを構成する重要なひとつでもあると思っています。それが意味するところは、「顔料体験」をすれば比較的受け入れやすいのではないでしょうか?


●西洋の天然顔料と日本の天然岩絵具について
sang さんが挙げられているクレマー(Kremer)、また、イタリアのゼッキ(Zecchi)で取り扱っている天然顔料は、古画の修復にも使われていると聞きますので、その点を評価基準とするならば、信頼しうる顔料といえます。もっとも、中でも、アズライトやマラカイトなどは、日本製が高く評価されており、金額も張ります(ヨーロッパのどこにお住まいなのか分かりませんが、日本製も扱っている店があるはずです)。

私見ですが、概して日本の天然岩絵具の方が優れています。仕事がすこぶる丁寧で、色のヴァリエーションが圧倒的に富んでいるという点で。ただ、西洋の天然顔料には、日本では通常使用しない藍鉄鉱(ヴィヴィアナイト)や翠銅鉱(ジアプタース又はダイアプタス)のような顔料もあり、使わない手はありません。
私は、原石で入手することの方が多いのですが、乾燥顔料として入手する場合は、粗粒(coarse)又は中粒(medium)で入手し、それを原石でやるのと同じように、好みの粒状度に加工します。多少手間が省けるという以外のメリットはあまり感じませんが、粗粒で購入すると、その本来の品質が良く分かりますし、業者の品質(不純物の除去など)に対する姿勢も分かります。

ジアプタース(翠銅鉱)は、青顔料のラピスラズリ対アズライトの比較に相当させると、緑顔料のマラカイト対ジアプタースということになります。ジアプタースの粒状はfine(およそ百)でなく、medium(下記「顔料の粒状度 その過去と現在」参照)以上で使ってこそその美しい緑が活きますし、一味違う仏画が描けるかもしれません。

ヴィヴィアナイト(ブルー・オーカー:藍鉄鉱)は、命名は近世ですが、中世の英国のポリクロミーや13〜14世紀のドイツのケルン派などにその使用例があります。ややくすんだ落ち着いた青です。

オリーブの葉の色をした緑の土「テル・ヴェルト[Glauconite:海緑石]」は、西洋の顔料のように思われていますが、マラカイト(岩緑青)が日本で使用される以前の緑は、テル・ヴェルトでした。九州の5〜6世紀の装飾古墳などにその例があります。また、現時点では、顔料が同定されていない、九州の装飾古墳に見られる「灰色の粘土のような」と東文研の朽津信明氏(「青色顔料から見た日本文化史」や「装飾古墳の顔料について」の論文あり)の言われる青は、私はヴィヴィアナイトが最も有力な候補だろうと推測しています(このことは昨年11月の九州国立博物館で開催の「文化財の保存と修復II」で、ご本人にお伝えしています)。

未体験の色材と出会ったとき、それが再発見又は再評価された顔料にせよ、まったく新しい色材にせよ、画家は往々にして良きインスピレーションを得ます。
ヴィヴィアナイトやジアプタースは、イコンを描く方向けに顔料を供給している店などで購入できるはずです。
特に鉱物系顔料は、その毒性や他の色材との相性・対策などについて予め知った上で使用することは言うまでもないことですが。


●顔料の粒状度 その過去と現在
 現在、色材を供給しているメーカーで、乾燥顔料あるいはチューブ入り絵具に使用されている顔料の粒状度を表示していることは、ほとんどないといって過言ではありません。できれば“○〜◎㎛、平均粒状度△㎛”と記してもらうと助かるのですが‥‥。

昔日の画匠が使用した顔料粒径を知る上での問題
 実は、私が顔料ラピスラズリの事を調べ始めたときに、一番困ったのが、この粒径でした。様々な国の保存修復に関する報告書に相当当たってみたのですが、絵画層(下地層を含むサンプルもあり)のクロスセクション(以下CSと略)は頻繁に載っているものの、ほとんどが各絵画層の厚みや顔料同定、あるいは絵具の重ね具合を示すのみで、粒径まで記してあることはすこぶる稀なのが実態でした。

なぜ、そうなのか。
これは、諸外国の保存修復報告書で得られるその結果からすれば、サンプリングのリスク(後述)を考慮して、保存修復を施す上で必ずしも過日の絵具の粒径が重要な情報ではないと判断されたプログラムに基づいていることが圧倒的に多いといえます。
また、現在の保存修復の主流は可逆性を前提にしており、例えば、絵画層が剥がれているところへの修復上の補彩は、いつでも必要とあればオリジナルを傷つけずに剥がせるようにしてあります。そのために、オリジナルと同じ顔料を使用することはには頓着せず、単に周りのオリジナルの色に同化するようその色味のみを合わせることが普通でもあるからでしょう。

CSは、丁度地層の断層面を見るように絵具層が見える状態に作成してあり、その各層に顔料の粒子が見えるわけですが、これを顔料の粒径を知るためのサンプルとして使用するにはいくつかの問題があります。

1.見えているものが、粒径の最大値なのかどうかが分からない。丁度人間を輪切りにスキャンした状態を考えた場合、頭の位置、首の位置、腕の位置によりまったく大きさ(外形)が異なるのと同じです。つまり、顔料の本来の大きさが不確実なのです。

2.絵具層では、粒子同士が重なることなく適度に分散していることが稀なために、1個の粒子として抽出しにくい。平均粒状度を得る場合、現状では分散法が確立していないために、ある程度恣意的にならざるを得ない。

3.一つのサンプルに含まれる粒子が少ないために、ある画家が使用した顔料の平均粒径度を導こうとする場合、相当量のサンプルを必要とするが、現実的に非常に困難。

つまり、ある特定の顔料の平均粒状度を知るために、本来その目的で作成されていないCSサンプルを利用(流用)すること自体に、そもそも無理があるわけです。
最も理想的なサンプルは、ある画家の使用した絵具、又は乾燥顔料が残っていること、あるいは、画家が使用したパレットが残されていること等なのですが、これはないものねだりなわけです。チューブ入り絵具ができる前のそれはほぼ存在しない(豚の膀胱などに入れた絵具は若干残っていますが、本格的な調査はまだのようです)。

やはり、CSサンプルを流用せざるを得ないのです。

過去レスで何度か言及(スレッド「フェルメール」など)したヘルマン・キューンが行った顔料の同定やその粒径の研究も、まったく理想的な状態からは程遠いこのCSサンプルを、各所蔵美術館・保存修復研究所に協力を得て初めて行えた、稀有な研究であったことがおわかりになるでしょう。
顔料粒径研究のために、貴重なCSサンプルを、ヴィヒクルから顔料粒子のみを抽出するのも様々な障害があり、かといって新たに原画から採取することは、現状では、つまり、非破壊的方法による研究が主流となっている昨今では、新技術でも開発されない限り、そのリスクを侵してまで情報を蓄積することは難しいものと思われます。これはこれで、いたしかたないことです。

ところで、医学・生物学・天文学方面などでよく使われる画像解析ソフトに、NIH image(Mac用)、Scion image(Windows用)があります。このソフトは高性能でありながら、無料で配布されていますので、個人研究用には欠かせません。
かりに、保存修復報告書などに、顔料粒子同士が適度に分散されている倍率100倍で撮影された図版があるとします。
そして、その中のひとつぶの粒径が1mmであったとするなら、その粒径の実寸は10㎛になります(しかしながら、粒子は常に歪ですから簡単にはすまない)。その他に大小の粒子が100余個あるとして、その平均粒状度を知ろうとしたときに便利なのが、上述のソフトであるわけです(図版にスケールも一緒に写っていれば更に良い)。
その図版をスキャナーでPCに取り込めば、ある程度の情報を得ることが可能です。

sang さんの問われている「粒径」の問題は、上記のような事情もあって、必ずしも十分なデータがないことをまず明記しておきます。(以下は、私の研究ノートからの抜粋です。西洋の天然石を含む顔料と日本の天然岩絵具を粒径で比較した文献は、残念ながら類例はありませんので。ただし、今回使用したデータには、私が第三機関に分析依頼したデータは含んでいません。)

では、具体的な顔料粒子に話を進めます。

 例えば、クレマー社が供給している顔料の粒状度としては、
昔日の顔料に類するもの
 土系顔料      20-50㎛
 レッド・オーカー   0-150㎛(粗粒)
 アズライト      10-50㎛(二種 30-120㎛、63㎛未満)
 スマルト       2種 0-80㎛、0-120㎛
 鉛-錫黄(タイプII) 0-63㎛
 セピア        2種 0‐63㎛、0‐80㎛
一方、近代以降の顔料の例として
 人工有機顔料   0.1-5㎛
 合成酸化鉄    10-50㎛
 チタニウム白    5-15㎛
その他
 方解末        2種 0-63㎛、63-125㎛
 方珪石       約8㎛
 ガラスの粉末    2-100㎛

また、日本では、ホルベイン社のデータを例にとると、
 シルバー白  0.9-2.3㎛
 チタニウム白  0.2-0.4㎛
 ランプ黒     0.1-0.2㎛
 チャイニーズ・バーミリオン 3-5㎛
  ※美術手帖 2005/04/17発売号   
   2. 絵画に見る「日本画」と「洋画」
   「顔料と展色材による絵具の種類 日本画と洋画における顔料の種類 顔料の性質による絵具の違い」
   には、別途、ホルベイン社の粒径が記してあるようです、詳しくはそちらの方を参照なさってください。

では、昔日の西洋絵画に実際に使われていた顔料の粒径は、というと、
ヘルマン・キューンの調査したフェルメールを例にとると、
 鉛白(ドイツ・スタック製法) 50㎛以上
 白亜(炭酸カルシウム)   0.1-0.5㎛
 ラピスラズリ          平均粒状度10㎛(最大30㎛以上)
 スマルト            およそ25-30㎛(最大75㎛以上)

京都の放光堂さんのマラカイト(岩緑青)の粒径
 外国に出回っている代表的な三種類の粒径
 粗粒(coarse) 40-160㎛を含み、80-120㎛が全体の75%を占める ‥‥‥‥‥‥番不詳(5〜6番?)
 中粒(medium)4-54㎛を含み、4-14㎛が全体の66%を占める ‥‥‥‥‥‥番不詳(12〜13番?)
 細粒(fine)1-11㎛で、1-5㎛が全体の92%を占める ‥‥‥‥‥‥‥‥「白」に相当

日本画用の顔料に使われる番手の凡その粒径(平均粒状度)
 11〜12番 ‥‥‥‥‥‥ 20㎛
 13〜14番 ‥‥‥‥‥‥ 10㎛
 白     ‥‥‥‥‥‥  3㎛

ということになります。 

Sangさんの場合は、≪私が使うのは岩絵の具だと、11〜白番の細かい粒子≫ということですから、平均粒状度は数㎛〜20㎛に相当するものと思われます。
特に天然物の場合、その粒径はかなりバラつきがあります。放光堂さんのマラカイトの例でも分かると思います。
すなわち、粗粒(coarse)の例では、最小40㎛、最大160㎛の粒子を含むが、80〜120㎛で全体の75%を占め、80㎛未満と120以㎛以上を併せても全体の25%である、ということです。 

西洋の乾燥顔料の加工・改良
天然顔料の色味は、ラピスラズリをひとまず別にすれば、水簸による粒状分別の結果ですから、例えば、以下のような工程を経て自分用にグレイドを変えることが可能です。(ビーカーは予め10個程度用意しておきます)
1.ビーカーに乾燥顔料と精製水を入れ、攪拌します。
攪拌を止めて例えば20秒経過したら、全量の1/3を、底の顔料が騒がないように別のビーカーに移す。
次に、不足の精製水を注ぎ足して、再度攪拌する。
20秒経過したら別のビーカーに移す。
これを何度か繰り返して、攪拌してもあまり水の色が変化しなくなったら終了。

2.今度は、別のビーカーに移したものをひとつにし、それに精製水を加え、攪拌する。
次に、今度は20秒ではなく、30秒経過したら前と同じように、別のビーカーに1/3を移す。
この工程を水があまり染まらなくなるまで何度も行う。

こうした工程を繰り返すと、移した別のビーカーの顔料は、同じ「百」でも以前よりも更に細かい粒子の顔料が得られますし、一方大元のビーカーの方には以前よりも粗い粒子の揃った色材が底に残ります。つまりもともと「白」として売られていたものに含まれる大小の粒子を「大きめの粒子」と「小さめの粒子」に分けるのです。粒状度は、攪拌後にどの程度の時間(20秒、40秒、80秒など)を置くかによって変化し、したがってその色にも変化を生じる。
それぞれの工程で、日本の顔料分別でやられているように、筆を使って不純物や他の粒径より明らかに大きいもの、あるいは色味の劣るものを取り除くことで、より整った顔料となります。

このような水簸による加工・改良法を知っておけば、粗粒(coarse)や中粒(medium)の天然顔料を入手して自分の好みの粒状度(色味)にできますから、そちらで入手されても十分に絵に活用できることと思われます。
これは当然ながら、色ガラスのフリット(frit)でも同じことですから、日本の新岩であとうと西洋のスマルトなどであろうと、応用可です。
必要があれば、光学式顕微鏡とデジカメで粒子を撮影(アダプターが必要)し、先に紹介したNIH imageやScion imageを使って、平均粒状度のデータを得ることもできます。その場合決して互いの粒子が重ならないように工夫し、それでも重なっているものがある場合は、それらは除外して測定するようにします。


以上、今回のご質問に直接関係のない昔日の顔料の粒径に関することも少し立ち入って記しましたが、チューブ絵具が一般化していくプロセスで様々な改良とともに顔料の粒径が相対的にいかに小さくなっているかを知っておくことは、今後のご判断の参考にはなると思います。

sang さんの制作の一助になれば幸いです。

 参考文献
●Kühn, H.,“A Study of Pigments and the Grounds Used by Jan Vermeer”, Report and Studies in the History of Art, National Gallery of Art, Washington, D. C., pp. 154-202, 1968.
●Roy, Ashok.(editor),“Artists’ Pigments ―A Handbook of their History and Characteristics― Vol. 2”, National Gallery of Art, Oxford University Press (1993)
●Helen C. Howard, Techniques of the Romanesque and Gothic Wall Paintings in the Holy Sepulchre Chapel, Winchester Cathedral, Historical Painting Techniques, Materials, and Studio Practice, University of Leiden, the Netherlands 26-29 June, 1995, pp. 91-104.
●『絵具の事典』ホルベイン工業技術部編 中央公論美術出版1996年
●『報告書 昔の顔料の研究』金沢美術工芸大学 美術工芸研究所1996年(非買)

 参考 企画展カタログ
●『色の博物誌 青 ― 永遠なる魅力』目黒区美術館1992年
●『色の博物誌 赤 ― 神秘の謎解き』目黒区美術館1994年
●『色の博物誌 白と黒 ― 静かな光の余韻』目黒区美術館1998年
●『色の博物誌 緑 ― 豊潤な影』目黒区美術館2001年
●『色の博物誌 黄 ― 地の力&空の力』目黒区美術館2004年


訂正

miyabyo さんのコメント
 (2006/03/15 05:33:24)

お読みになれば誤解はないと思いますが、
上記中「百」とあるのは全て「白(びゃく)」です。


sang さんのコメント
 (2006/03/16 04:19:16)

うわ〜っ!! すごい!! いや、、まだ読んでないのですが、お忙しい中こんなに長い文章を書いていただいて感謝します。 これからじっくり読ませていただいて、またこちらに書き込みさせていただきます。
 ありがとうございました! 読むのがとても楽しみです。
 


sang さんのコメント
 (2006/03/17 05:01:05)

じっくり読ませていただきました。
すばらしい内容に改めて脱帽です。 
私のほんの数行の質問に対して、このように詳しい回答がいただけて感謝しております。
 ジアプタース、かなり興味がわきましたので一度どんな色なのか画材屋を見てみます。
 実際に私でも試すことができそうな粒状の分別方法も教えていただけてよかったです。
ありがとうございました。
 それにしても、ホントによくご存知ですね。


レーキ顔料について

柳 さんのコメント
 (2007/05/02 17:02:10)

レーキ顔料、特に茜レーキやコチニールレーキ、アリザリンレーキなどの赤色レーキ顔料について書かれた文献を探しています。もしよろしければ教えて頂けませんでしょうか。


Re: レーキ顔料について

miyabyo さんのコメント
 (2007/05/02 02:45:41)

初めまして、ミヤビヨです。
手持ち分で関連論文としては以下のものがあります。

論文関連
●A. Verhecken / J. Wouters,“The Coccid Insect Dyes. Historical, geographical and technical data”, Bulletin XXII, Institut Royal du Patrimoine Artistique Koninklijk Institut voor het Kunstpatrimonium, 1988/89, pp. 207-240.

◎Schweppe, Helmut / Roosen-Runge, Heinz ,“Carmine - Cochineal Carmine and Kermes Carmine ”, Feller, R. L.(edit.), Artists’ Pigments ―A Handbook of their History and Characteristics―, Vol. 1, Cambridge University Press (1986), pp. 255-283.

●Kirby, Jo / White, Raymond,“The Identification of Red Lake Pigment Dyestuffs and Discussion of their Use”, National Gallery Technical Bulletin, vol. 17, pp.56-80, 1996.

◎Schweppe, Helmut / Winter, John,“Madder and Alizarin”, FitzHugh, Elisabeth West (editor), Artists’ Pigments ―A Handbook of their History and Characteristics― Vol. 3, National Gallery of Art, Oxford University Press(1997), pp. 109-142.

●Hermens, Erma / Wallert, Arie,“The Pekstok Papers: Lake Pigments, Prison and Paint-mills”, Looking Through Paintings, The Study of Painting Techniques and Materials in Support of Art Historical Research, Erma Hermens (Editor),Archetype Pub., 1998, pp. 295-317.

●Jo Kirby, Marika Spring and Catherine Higgitt, The Technology of Red Lake Pigment Manufacture: Study of the Dyestuff Substrate, The National Gallery Technical Bulletin Vol. 26, 2005, pp. 71-87.


◎印は、必須論文です。
この他に、具体的に昔日の絵画に基づく保存科学の方からの報告書はたくさんあります。

ひとまず、絵具としてのレーキ顔料をメインにご紹介しましたが、
もしよろしければ、どのような観点から興味をお持ちなのか、お書きくださればと思います。
その傾向によっては、もう少しずばりの文献をご紹介できるものと思います。


顔料 (5)」へ続く。


[HOME] [TOP] [HELP] [FIND]

Mie-BBS v2.13 by Saiey