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画材&技法 全般 (5)」からの続き。


画材&技法 全般 (6)


名前は良く聞きますが。

bonapa さんのコメント
 (2002/06/14 07:51:14)

こんにちは。
このオイルの名前ってとても一般的に聞きますね。でも何につかうかは私は良く知らないです。
昔「やけどにはひまし油」といっていたのが実は間違いであった。という説があって、そのご「やけどにはラベンダーオイル」というのが一般的な用法にとって変ったというのをアロマテラピーの記事で読んだ事があります。 もともと「トウゴマ、ヒマ」と呼ばれる植物から採取されるようですが、多くは潤滑油とか何かの下材料に使われるオイル、とききました。

想像ですが、絵画には向いていなさそうな気がします。


ひまし油

管理人 さんのコメント
 (2002/06/17 05:50:24)

ひまし油ってよく聞きますが、私もよく知らないです。

ヒマの種子(トウゴマ)から取れる油と辞書には載ってます。
http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/BotanicalGarden/HTMLs/tougoma.html
↑これ?
種には毒素があるそうですから、食品添加物としては良いものではなかったのかもしれません。

もともと不乾性油ですが、変性させた「脱水ひまし油」というのは、乾燥が早く、黄変もないそうです。
絵画用のものは、当サイトのトップページでも紹介している俵屋工房でも扱っています。

マスチックワニスに加えると、マスチックの脆弱性を取り除くというのが、デルナー始め、いろんな技法書に載ってます。
ただし、技法書によって、いろんな書き方がされていて、一方ではこの場面で使うと書いてあるのに、他方ではその場面では使っていけないと書いてあったり、チェックするのも面倒な気がしてきます。

例のマッセイの処方集にも↓こんなのがありました。Castor oilがひまし油
--
varnish No.13
Mastic resin and castor oil

PURPOSE: Even caster oil is good for something around the studio. A very small amount of this non-yellowing natural oil removes the brittleness of a mastic resin coat.

INGREDIENTS:
Mastic varnish: 19
Castor oil:    1
≪中略≫
DIRECTIONS FOR USE: This formula is best reserved for use only as a final picture varnish.
≪中略≫
--

絵具に断り無く入ってたら嫌ですね。


再び、油の漂白についてなんですが、

管理人 さんのコメント
 (2002/06/20 23:48:42)

前に紹介した、油メーカーのホームページでも、書いてありましたが、工場では、油の色素吸着に活性白土というのを使います。
アトリエでやる場合は、硫酸バリウム等も使えるそうですが、とりあえず普通に活性白土を使ってみたいと思いました。
で、最初、活性白土メーカーに問い合わせたら、25kg単位での取引とか言われてしまったんですが、
薬局で調べてもらったら、試薬用に小量で買えるみたいなので、注文してきました。
500gで2000円。まあ、業務用のを買えば、きっと炭カル並みの値段だとは思うんですけどね。
でも、これだと少し少ないですね。2kgぐらいあるといいんですが。

この辺の情報をしっている方がいましたら、何でもいいので、書き込んでみてください。

薬局に薬品を買いにいくときですが、マツキヨのような量販店に行っても、取り寄せてはもらえません。
ちゃんとした薬剤師がいる店に行かないと話にならないと思います。
たぶん、活性白土を注文する人は他に居ないと思うので、最初はなんのことかわかってもらえないと思いますが、まあ、2、3軒回って親切なところを探してみましょう。


薬局

karu さんのコメント
 (2002/06/21 01:16:20)

ちなみに生リンシードは薬局で買うと安いですね。
亜麻仁油(あまに油)の名で売っていますがこれも注文しないと無いかも。
画溶液に使うには上記の様な処理がいるので、以前は自作パレット作るのに塗ったり、市販のパレットのニスを除去してリンシードを塗り直した時には重宝しました。
あと市販油性キャンバスの脱脂用の無水アルコールや精製水など薬局で買える画材は結構多いです。


お、

管理人 さんのコメント
 (2002/06/22 00:54:37)

誰も反応してくれなかったので、お返事があって嬉しいです。
しかも、こんな時間に。

生リンシードって、薬局でも売ってるのですか。
今度、買ってみて、メーカーに電話して、産地とか製法とかどんなのかいろいろ聞いてみようかと思います。嫌がられるかもしれませんが。

精製水は、さすがのマツキヨでも売ってますよね。

他にはどんなものがありますか?


活性白土による色素吸着ですが、やはり少し温度を加えた方がいいのだろうか、とそんなことを考えています。
温度とか、あとは圧力とか。


オイルへの鉛混入

管理人 さんのコメント
 (2002/06/26 01:49:15)

鉛入りオイルの作り方について、いろいろやってみたのですが、詳しい方の意見を聞きたいと思います。

と、いきなり言われてもほとんどの人は何を言っているのかわからないと思うので、仮ですが、急いで手順解説のページを作ってみました。

http://homepage1.nifty.com/cad-red/mt/o_black.html

ブラックオイルというものです。ルフランの画用液にもあります。これで描くと、乾燥がかなり速いです。半日で触れるぐらいになります。仮のページなので、初心者の方は、ベテランの方の意見を待ってから、挑戦してみてください。参考にする資料がほとんど無かったのですが、何か文献等ありましたら、教えてください。

どれくらいの長さボイルするのがいいのか、とか、聞いてみたいことがたくさんあります。

これとは違いますが、ラングレの技法書にも、鉛を入れてボイルする方法が載っているので、それを試した人は多いかと思うのですが、何かご経験などありましたら、書き込んでください。

鉛入りオイルの作成


鉛入りオイル

ゼレアー さんのコメント
 (2002/06/30 18:54:31)

こんにちわ、ゼレアーです。
実は、鉛入りオイルについては、私はそれほどの賛成派ではありません。理由は3つ…もうそれ自体、シッカチーフと言ってもいいくらいの鉛入りオイルは、やはり使い方次第で画面のトラブルが非常に起こりやすいので、未熟な私には扱いにくいことと、油彩の画用液にはもともと乾性油が使われているわけですから、あえて乾燥を促すものを添加する必要性は低いこと、あと、自製するにはかなりの時間を拘束されてしまう、という考えからです。
油の乾燥性を得る方法としては、金属類の添加以外にも、加熱したり、太陽光にさらしたりが考えられます。その加工時間の長さによって、乾燥度を調節できるでしょうし、太陽光にさらす場合には、どの季節に行なうかといった時期的なものでも違ってきます。うまく行けば、鉛を加えたものに決して劣らない乾燥性を持つ油ができるかもしれませんし、できなければ、加える樹脂の種類や分量、加工方法を見直したり、絵具を薄塗りしながら描画を進めたりと…できるだけ早く乾燥するような、その他の工夫をすればいいと思うのです。(極端な言い方ですが、乾燥のめちゃくちゃ早いアクリル画に転向する道もあります。)
ここ最近、食品添加物をめぐる報道もなされていますが、油に加える鉛は食品添加物みたいなものです。果たして本当に必要なのか、いい効果が期待できるのか…こうしたことを考えながら、必要最低限、できるだけピュアな組成での画用液作りに心がけています。油彩画制作は本来時間がかかるもの。長い目で見て、じっくり腰を落ち着けての制作が必要なのではないか、と思います。
しかし、乾燥剤自体を悪者だとは思いません。どうしても使わざるを得ない状況も人によってはあるはずですし、使い方次第でいいものにも悪いものにもなりうるわけですから。こんな私も鉛入りオイルを自製して、描画に使った経験がありますし…ちなみに、この時は、「ポピーオイル」を使いました。リンシードよりも乾燥が遅いという、本来の性質を補うために鉛を加えた…そんな明確な動機があったわけです。
この時、ポピーオイルはそれほど高温加熱しませんでした…いろんな文献を参考にして、「上限130℃」に設定しました。しかし、加熱時間はハンパじゃなかった…リンシードよりかなり長め、倍の時間はかけましたが、細かい数字は公表を控えさせていただきます。鉛をどの段階で加えたのかも秘密ですが、油に入れた状態で火にかけることはしませんでした。
ルフランのブラックオイルは、ポピーの性質に近いウォルナッツオイルにリサージ(一酸化鉛)を加えたものだそうですね。ブラックオイルの製法は、J・シェパード著「巨匠に学ぶ絵画技法」(マール社)にも出ています。ここでも、リサージの記述があります。
リサージは劇物指定ですが、シルバーホワイト(塩基性炭酸鉛)は普通物の扱いです。同じ白色顔料の炭酸鉛は劇物なのに、理由は未だにわかりません。鉛白を加熱してリサージができるそうですが、鉛の気化ガスが怖くて、未だに試していません。(たぶん、永久にやらないかな…。化学工場で分けてくれそうだけど、25kg単位と言われそう…。)
私の経験から言えば、油の加熱はほんとに手間のかかる作業だと思います。長時間、温度計とにらめっこしながら一定温度の管理をしなければならないですから。この間、落ち着いて絵を描くことも難しい…たしかに、画材の自製は絵に携わる者にとって、重要なポジションを占めてはいますが、あれもこれも手を出すのはどうかと正直感じます。市販品でも優れた製品はあるわけですし、たとえば、買ってきた絵具の性能が良くないと感じたら、顔料や樹脂を補って自分で練り直せば使えるかもしれません。
絵に携わる者が一番すべきことは、やっぱり「絵を描くこと」なのです。時間の流れも社会状況も、今と昔とでは全く違います。せっかくある画材産業の成果もうまく取り入れながら、時間を有効に使いたい、と感じている今日この頃です。


ただ、勘違いしないでほしいのですが…

ゼレアー さんのコメント
 (2002/06/30 19:14:18)

油の自製を否定しているのではありません。むしろ、初心者の方にはどんどんやってもらいたいと思います。画材の自製を含めて、いろいろなことに貪欲に挑戦することは、とてもいいことです。手間隙かけて成功も失敗もして、絵画制作に必ずプラスになるはずですから。時間をかけて画材をとことん研究されている管理人様には、頭の下がる思いです。念の為、申し添えておきます。


分野は違うのですが・・・

risa さんのコメント
 (2002/07/02 18:32:57)

はじめまして、 実は、グーグルで検索していて、こちらを知りました。
私は以前、絵を趣味で絵を描いていて、現在は色彩の勉強中です。
今年色彩検定1級を取得し、その後の研究会で、絵画と色彩(といっても美術史と余り変わらない)というテーマで発表しようと思ってます。
たまたま、選んだテーマが、「スペイン絵画の黄金期ーグレコ、ベラスケス、 ゴヤ」です。
グレコのところで、「カンジャンテ」という言葉を 初めて知りました。
変化に富んだという意味のイタリア語という説明でした。

掲示板を読んでいてみなさん、古典技法に大変お詳しいので、 びっくりしました。
私のような初心者で、何も知らないものがカキコ
していうものかどうか悩みましたが、ここはひとついろいろと古典技法などにお詳しいみなさんの
お力をお借りしようと思いまして思い切って書き込みさせていただいています。

「カンジャンテ」とは具体的にはどんな技法で、どういう画家が使っていたのでしょうか?ミケランジェロなどが例としてあげられてましたが、他にはどんな画家が使用しているのでしょうか?変化に富んだとは色相的にでしょうか?
明度でしょうか?
>
それと、スペインのバロック、ベラスケスなどは、イタリア、特にベネチア派に比べるとあまり 色を使っていないような気がするのですが、何か理由があるのでしょうか?
真実かどうかわかりませんが、当時青はウルトラマリンが高価で高貴な人を描くのに用いられていたと思うのですが、ベラスケスほどの宮廷画家が
アズライトを使用していたそうです。理由は流通の関係で手に入れるのが困難だったという説を聞いたことがあるのですが、その辺もご存知の方がいらしゃったら教えてください。
またベラスケスは白を29色、黒を11色使っていたなどという資料もありましたが、どんなものを使っていたのでしょうか?
また、あの時代のスペイン絵画で特徴的な技法があれば、 是非教えていただくとうれしいです。
みなさんのレベルからするとお恥ずかしいかぎりの質問で、勉強不足で的外れな質問もあるかと思いますが、どうかご存知の方よろしくお願いします。


続:鉛いりオイル

管理人 さんのコメント
 (2002/07/11 15:48:30)

http://homepage1.nifty.com/cad-red/mt/o_black.html

↑のページですが、とりあえず、修正した方が良さそうな点と言えば、ビーカーをもう少し大きくした方が安全で良さそうだというところでしょうか。

ところで、何故か樹脂をひとかけ入れると、ブラックオイルが完成するのが格段に早くなるんですよ。これってどういうことなんでしょう。

ゼレアーさん、

コメントありがとうございます。

添加物に関してですが、おっしゃる通りであると思いますが、気づかぬうちに乾燥剤や合成樹脂が入っているケースと、自分で添加物をコントロールして混入しているケースでは、かなり意味が違うのではないかと思います。市販の調合メディウムの場合は、かなり昔から売られている有名な画用液でも乾燥剤、合成樹脂が入っているケースは多いですし、添加物を気にする場合は、普通は自製する方に向かうような気がするのですが。

あと、乾燥剤はもちろん、使い方を間違えると皺がよったりと弊害がありますが、コバルト、マンガン系など表面乾燥を即す乾燥剤と違って、鉛系の乾燥剤は頭から否定するようなものではないと思います。

それと、一応わたしも断っておかないといけないのですが、メディウムを自製するのは、私にとって市販の画用液にない魅力を感じるからで、市販の画用液に代えることができないからです。もちろん、理解するためとか、勉強のためとか、そういう理由もありますが、決してそのためにやっているわけではありません。その材料が欲しいのでやっているのです。
もちろん、初心者がやることによって画材を理解するのも大事でが、最終的には、必要な人は続けていくでしょうし、必要でない人はしない、という感じで良いのではないでしょうか。


油抜き

フミヨ さんのコメント
 (2002/07/25 02:58:46)

はじめまして。
突然の質問で失礼します。
明治以降の作家が、油絵の具の油を新聞紙などで吸収させてから使用していたということが、歌田眞介先生の「油画を解剖する」という本に書かれていたのですが、油抜きをしていた作家とその技法、それらの作品の保存修復方法について何か知っていることがあれば何でも良いので教えてもらえないでしょうか。
よろしくおねがいします。


RE:油抜き

管理人 さんのコメント
 (2002/07/27 03:57:22)

フミヨさん、こんにちは。
ちょっと上のご質問では範囲が広すぎて、どのようなことをお尋ねかよくわからないのですが、下記の図録なんか、ご覧になるといいのではないでしょうか。
・東京藝術大学大学美術館『油画を読む』
修復、保存のことなど、作品ごとに触れてるので。
芸大美術館に行けば、買えると思いますよ。

他にも、いろんな美術館で、明治時代の洋画の展覧会などの図録を手に入れると良いかと。


RE:分野は違うのですが・・・

karu さんのコメント
 (2002/07/30 15:31:40)

risaさん>
スペインのバロックとイタリアのヴェネチア派では表現が違うので表面に表れている色だけが使用色と見るのは早計です。それに美術史の枠組みで全ての作家の表現をくくれるかは疑問です。明暗表現を主体にした絵は色彩は概して二次的な物として扱われます。(でも使っている色数は意外に多いと言われています)特に暗色のニュアンスは画集など写真には写らないので実物を観ることをお薦めします。
アズライトはラピス・ラズリの代用だけど、当時も決して安価ではないと思います。詳しくは青色顔料を参照して下さい。
ベラスケスは白を29色、黒を11色使っていた>混色や塗り重ねのテクニックのヴァリエーションの豊富さで材料(白色・黒色顔料)の数では無いと思います。白や黒と呼べる範囲内ではっきりとした色相を感じさせない程度の微妙なニュアンスを指して言ったのだと思います。これは誰が言ったのでしょう?ドラクロワの日記などを読むと出てきそうですが。


ひまし油

chika さんのコメント
 (2002/08/13 15:21:09)

ゼレアーさんこんにちは。はじめまして。
とっても遅いレスになので何の話しだったろうかと思われるかも知れませんが、一応。
エゴマのオイルで、乾性油としては良く使われているようです。
家具などのオイル仕上げとかに桐油・ひまし油・亜麻仁油を多く使用しているようです。
ちなみに漆の世界ではひまし油・桐油が多く、顔料(西洋画とほぼ同じです。詳しくはわかりませんが。)と混ぜて使っていますので、顔料などに混ぜる油としては、悪いものでもないような気が、(個人的には)します。
ただ、私はにおいが苦手なので、ちょっと使う気はしません。ちなみに、ひまし油よりは桐油の方が高級らしいです。(適当)。
まあ、自分でコスメとか石けんを作っている人達にはとっても人気のオイルです。これで石けんを作ると透明になるらしい。関係ないことまで書いてすみません。では。


古典技法研究に活用できるサイト紹介

miyabyo さんのコメント
 (2002/09/13 06:16:45 -
E-Mail)

 私が昨年まで年間購読していた機関誌“Art and Archaeology Technical Abstracts”が、本年の6月よりネット上で無償で閲覧できるようになりましたので、ご案内します。
 この機関誌は、もともと“Abstract of Technical Studies in Art and Archaeology”(1943-1952年)として始まり、それが“I. I. C. Abstracts”(1953-1965年)に受け継がれ、さらに2001年まで上載の誌名でゲティー美術館内にて運営されていたものです。ゲッテンス/スタウト『絵画材料事典』にも紹介してあります。
年間に世界中で厖大な修復・保存関連の書籍、論文、記事が発表されるために、研究者や修復家の便宜を図るのを目的として、運営スタッフの手で重要だと思われるそれらの内容のレジメを作成し、会員に送付していたものです。
ご承知のように、修復・保存を前提として事前に実施される美術品の調査は、昔日の画匠たちの技法を推測する研究者や愛好家にとって、得がたい情報です。解説内容によっては、実際の論文等を読まなくとも十分なものもありますし、全文を読みたい場合でも、「丸善書店」「紀伊國屋書店」に頼めば、コピーサービス(有料)を海外提携図書館を通じて郵送してくれます。

http://aata.getty.edu/NPS/
画面左フレームのATTA General Categories の中のG: Materials and Objectsです。


RE. 分野は違うのですが

miyabyo さんのコメント
 (2002/09/15 08:02:19)

 私の知っていることだけお答えしておきます。
《真実かどうかわかりませんが、当時青はウルトラマリンが高価で高貴な人を描くのに用いられていたと思うのですが、ベラスケスほどの宮廷画家がアズライトを使用していたそうです。理由は流通の関係で手に入れるのが困難だったという説を聞いたことがあるのですが》

私の研究した『ラピスラズリを顔料にするにあたっての若干の考察』(1987)の「第6章ラピスラズリは色材としてどのように使用されたか」から引用しておきます。
  ‥‥スペインで1615年に書かれたFelipe Nunes  の書には「高価であるがゆえにウルトラマリン青は ほとんど使われず、そうした理由からその制作法は 広く知られていない」とあるし、ヴェラスケスの師 匠であったパーチェコが1649年に書いた『絵画芸術 論』では、「ウルトラマリンは、スペインでは使用 されなかったし、それを使うだけの十分な財産を持 った画家もいなかった」とあり、さらに1656年に書 かれた作者不詳の『絵画芸術小論』には「それは非 常に高価であり、聖母マリアの外套のためのみに使 用された」と述べている。‥‥

 《またベラスケスは白を29色、黒を11色使っていたなどという資料もありましたが、どんなものを使っていたのでしょうか?》
 A.B2冊の調査報告書より
A資料:<ラス・メニーナス>を含む7作品の試料から同定(1988年)
青色:アズライト、天然ウルトラマリン(ラピスラズリ)、スマルト。
赤色:ヴァーミリオン(シナバー)、赤レーキ
黄色:鉛-錫-黄(土系顔料として黄土)
緑色:混色(土系顔料テル・ヴェルト使用)
紫色:ラピスラズリ+赤レーキの混色
白色:鉛白
黒色:植物性黒と/又は動物性黒
土系顔料:黄土、レッド土、アンバー/ブラウン土、テル・ヴェルト
ブラウン:有機系ブラウン(ヴァンダイク・ブラウン?)

B資料:(1998年)
青色:アズライト、ラピスラズリ、スマルト。
赤色:赤酸化鉄、人工ヴァーミリオン、有機赤レーキ
オレンジ色:オレンジ酸化鉄、人工ヴァーミリオン
黄色:鉛-錫-黄、黄色酸化鉄、ナポリ黄=鉛−錫−黄(のちに控えめに)
緑色:アズライト+酸化鉄+酸化マンガンの混色
紫色:アズライト+有機赤レーキの混色
白色:鉛白と方解石で作られたもの
黒色:植物又は動物による有機性の黒
ブラウン:ブラウン酸化鉄、酸化マンガン

 ヴェラスケスが生きていた1599-1660年間に書かれたスペインの技法書と、ヴェラスケスの作品の顔料を調査した報告書に基づいて云えば、当時のスペインの経済状況はすでに失速の状態であったものの、ヴェラスケスは、しっかりラピスラズリを使える身分だったことがわかります。
 また、白絵具も黒絵具も上記の資料にある通り、当時の他の画家たちが使用していたものと、なんら変わりません。

《‥‥あの時代のスペイン絵画で特徴的な技法があれば‥‥》
 これについては私見とさせてください。「スペイン絵画」という括りで、エル・グレコからゴヤまでの約250年の隙間を十分満たせるような、時代的に他を圧倒する技法はないと私は思います。むしろ孤高的な個性をもった画家たちが、ゴヤの「巨人」の絵のように、それぞれの時代の山の向こうに立ち尽くしているだけなのではないでしょうか。


ベラスケスのパレット

窓の鳥 さんのコメント
 (2002/09/17 13:05:42)

miyabyo様

非常に貴重な資料をありがとうございます。

凄いですね。
プラドで模写している人でも、殆どここまで研究していませんよ!

あるスペイン人画家から「ベラスケスは黒は使っていない」といわれた事があるくらいです。
(精神的な意味ではあり得るが、そう言う意味ではいっていなかったと思う)

miyabyo様の資料を見ると、何ら変わった物を使ったわけでは無いのがよく分かります。
ちょっと安心しました。


『ド・マイエルン手稿』に残されたヴァン・ダイクの技法

miyabyo さんのコメント
 (2002/09/22 01:20:30 -
E-Mail)


 窓の鳥さんへ
 前からの書き込みをみますと、ヴァン・ダイクにも興味をお持ちのようですね。
 私がある画家の技法について夢想するときは、
  1.彼の作品の修復に関する報告書に目を通すこと。
  2.彼の生きた時代又はその前後に残されている技法に関する手稿にあたること。
  3.彼の作品をじっくり観察すること(金がなくてあまり実行できていないが)。
  4.実際の描いてみること(模写、自作への適用)。
   を、極力実行しています。
 ヴァン・ダイクは私の直接の研究対象ではありませんが、副次資料からここに抜き出しておきます。皆さんの議論が、より深まれば幸いです。

 溶剤は、2000年にロンドンナショナルギャラリー所蔵の作品12点を分析した結果、以下の4種類が解明されています。
1.ボイルド・リンシード油のみ
2.クルミ油のみ
3.ボイルド・リンシード油 + クルミ油
4.ボイルド・リンシード油 + 松脂少量(pine resin)
 
 この中で、4.の「松脂少量」は、化学者としてはこういう表現になりますが、ヴェネツィア・テレピン・バルサムであるのは、下に訳した『ド・マイエルン手稿』から、十分に首肯できることと思います。
 また、ヴァン・ダイクは、現在では悪名高いビチューメン(アスファルト、モミー)を、グレーズ用に使用していたこともわかっています。

 彼が英国に渡り、『ド・マイエルン手稿』にどのような言葉を残しているのだろうか?
   (No.8, v. d.Graaf,ド・マイエルン手稿. p.139. 独:No.13, 仏:fo1.10, p.24)
   重要な結果を及ぼす礬水(どうさ)引き
   アントニオ・ヴァン・ダイク卿は、魚膠で礬水引きを試してみた。しかし、彼がいうには、塗ったところは剥がれ、しかも数日で絵具をだめにするとのことだ。この膠は何の役にも立たない。
    【欄外付記:1633年5月20日ロンドン】

【訳注】上のNo.8と下のNo.41aとの間に、マイエルンは、次のような書き込みをしています。
 《私が持っている絵具用の良質ワニスをヴァン・ダイク卿に提供した。それはGentileschj氏のワニスのやり方で、絵具と一緒にパレットで混ぜるものだ。彼は、それがあまりに濃すぎるので、絵具は流動性に劣る、と私に語った。精製テレピンや他の揮発性液を少量加えたら改善できると返答したが、彼はダメと答えた。しかしやることは残っている。無色のポピー油、アスピック油、などが役立つかどうか調べよ。》

   (No.41a, v. d.Graaf,ド・マイエルン手稿. p.165. 独:No.13, 仏:fo1.10, p.25)
   《アントニオ・ヴァン・ダイク卿の実験》
   彼は“wismutt:蒼鉛”の錫白を油に試してみた。そしていうには、よく洗って準備した普通の鉛白の方がかなり白く、錫白は十分な腰(body)がないとのことだ。これは彩飾写本にしか役立たない。

   (No.73, v. d.Graaf,ド・マイエルン手稿. p.175. 独:No.332, 仏:fo1.153, p.151)
   黄色の使い方
   彼が使っているオルピメントは、現在ある中で最も美しい黄色である。しかし、それは非常にゆっくり乾燥し、他の色と混ぜるといかなる色をも殺す。
    【欄外付記:注意 オルピメント】
   それが乾燥するようにするには、磨り潰したガラスを少量加えねばならない。又それを使用する場合、他の黄色と一緒に(単独で施すならそれが最良である)衣文の襞を描くところにのみ施すことが肝要であり、乾いたならその上にオルピメントで際立たせることが必要である。この結果汝の仕事は並外れて素晴らしいものとなる。

   (No.86, v. d.Graaf,ド・マイエルン手稿. pp.177-8. 独:No.332, 仏:fo1.153, pp.149-51)
   傑出せる画家、騎士アントニオ・ヴァン・ダイク卿
   1632年12月30日(【訳注】彼がナイト爵に叙されたのは、1632年7月5日)
   注意。油は画家が吟味すべき重要なものである。それが品質が良く、透明であり、流動性に富んでいるかどうか試すこと。というのも、もしも脂肪質が多すぎると、最も美しい色、特に青系の色やその青で作られる緑などを、すべて殺してしまうからだ。
 リンシード油は中でも最高であり、もっと脂肪質(油っぽい)のクルミ油や、脂肪が増えて濃厚になりやすいポピー油を凌ぐ。
    【欄外付記:ロンドン
     前述の青や緑の絵具は、テンペラのようにガム水か魚膠で描き、そうしてからワニス掛けをするように彼は勧めている。それは油で塗った色と遜色ないらしい。彼がいうには、自分の絵にはいつもガム水を使って上述の色に塗っており、乾かしてからその上にワニスを引くとのことだ。しかしこの秘密は、上述のテンペラ絵具を取ってこれを油性の下塗りの上に結合させることにある。それが確実に結合するように、玉葱の(又はニンニクの)汁を下塗りの上に擦り込む。それが乾燥したならば、水などと混ぜて作った絵具を受け入れ、そして支える。
     魚の胆汁あるいはその他のものが同様の結果になるかどうかを試してみよ。
     この談話は、彼が述べたことに基づいている。フィレンツェの優れた画家Gentileschi氏は、草から作った非常に優れた緑を所有し、自分の絵に使用−おそらく先述の手段で−するとのことだ。ここで、酒石とガンボージ(雄黄)でサップグリーンを調合し、上述の緑に試してみよ。これはまったく色褪せしない。

   (No.104, v. d.Graaf,ド・マイエルン手稿. p.184. 独:No.296, 仏:fo1.137, p.133)
   《日陰でリンシード油を漂白することについて》
   1/2パイントのaua vitaeに卵黄2個を混ぜよ。1クオートの油と一緒にこの混合物をガラス瓶に入れて日陰に置け。成分をたびたび振り動かし、四つに裂けた羽根でそれを混和させよ。次に瓶を封じ、中身を静ませよ。この油は数日で漂白されてくる。それを沈澱物から分離し、使うまで保管せよ。
    【欄外付記:卵白ではうまくいかない、卵黄でやるべきだ。】
   《【訳注】 “aqua vitae”はラテン語で「生命の水」の意味。ベルガー版では「ワイン酒精(アルコール)」、仏版では「酢」、V.D.グラーフ版では「ブランディー」と解釈している。ちなみに、原文のイタリア語のほかに、仏訳、独訳を参照して訳したら以下のようになった。

    卵黄を2個取り、それをよくかき混ぜて、3回煮た(または普通の)aqua vitaを水差し1/4の量と、その卵黄を混ぜよ。フラスコに水差し一杯分のリンシード油を加え、すべてが混ざるまでその成分と油を日陰で絶えず振り動かせ。それを四つに裂けた羽根で行え。次にフラスコの口を封じ、放置して静ませておけば、それは数日ですっかり透明になる。》

   (No.105, v. d.Graaf,ド・マイエルン手稿. p.184. 独:No.299, 仏:fo1.140, p.135)
   日陰でリンシード油を漂白することについて
   aqua vitae (eau de vie) を卵黄と混ぜよ(私のいう普通のaqua vitaeとは、卵黄をすぐに濃厚にし、硬化するアルコールではない)。この混合物を油と一緒に薬瓶に入れて日陰に置き、容器を何度も攪拌せよ。油が漂白されるまで長く放置せよ。何時はそれを漉し、それを使用するために残留物から分離せよ。
    【欄外付記:私はこれらの処方をクールマン通りに在住のアダムと称するフランドルの画家より得た。】
   卵黄を油と掻き混ぜると良くなることに留意せよ。次にaqua vitaeをそれに加えよ。この場合アルコールを試してもよい。しかし私は普通のaqua vitaeがよいと思う。アダムが私に語ったところでは、彼は普通のaqua vitaeを使っており、その薬瓶は日陰の棚に置いておくだけでよいという。そして油は、3週間かせいぜい1ヶ月内に完全に漂白されるとのことだ。

   (No.151, v. d.Graaf,ド・マイエルン手稿. p.204. 独:No.299, 仏:fo1.153, p.151)
   画家が使う普通のワニス(極上のヴェネツィアテレピン油とテレピンを湯煎にして作られる)を作る場合、どのようにしてもテレピンが蒸発しないか調べることが肝要である。そうでないとワニスは十分に乾かないし早く乾燥もしないからだ。これは蒸留器又は首がかなり長いマトラスで簡単に行える。
    【欄外付記:1632年12月30日 注意。ヴァン・ソメールの教えを見よ。】
   《【訳注】マトラス:長首で底の丸い蒸留用フラスコ。湯煎:bain marie》

以上が、『ド・マイエルン手稿』に残されたヴァン・ダイクのすべてです。






画材&技法 全般 (7)」へ続く。


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